こんにちは、人は死にます。

不動産の仕事をしていると、「人は死ぬ」という当たり前の出来事と出会う機会が度々あり、そのお片付けをすることもそれなりにあります。いわゆる、遺品整理であるとか、モノによっては特殊清掃と呼ばれるやつですね。

かつて、知人を管理物件に入居させたらほどなくして亡くなってしまったことがありました。ご遺体そのものは警察と消防が運び出してくれるので、残ったものの掃除が僕の仕事ということになります。死後数日とさほど状態は悪くありませんでしたが、吐血されて亡くなったようで、やはりそれなりの汚損が部屋にはありました。

僕が入居を決めたお客様なので、僕がDIYで特殊清掃をしました。

死臭というのは不思議なもので、精神的な嫌悪感は薄くても身体が衛生的なリスクを感じるのか、自然と吐き気がこみあげてきます。現代を生きていると、人が死んで腐敗する、有機物になるということに直面する機会はあまりないのですが、やはり人は死ぬんだなという感慨がありました。

亡くなったのは、海外からやってきて色々あって難民申請をしているところ、という身の上の方で、まともな暮らしを手に入れるのにも随分苦労されていました。世の中には色んな事情を持った人がいます。これは結構本音なのだけれど、僕は仕事をするなら誰かの助けになりたいなぁと思うタイプなので、こういう厄介な案件をわりと抱え込みますし、そのたびに、世の中というものは厳しいなと思います。

さて、人が死んでいなくなった部屋には彼の人生を窺わせるものがたくさん残っていました。読み古した聖書には家族の写真が挟まれ、バスタオルは浴室の前にきちんと畳んで積まれ、床は神経質に雑巾で磨かれていました。

一番気持ちに堪えたのは、死臭でも吐き散らされた吐瀉物でもなく炊飯器の中で水につけられた米でした。

死んだ人の炊飯器に炊けていないお米が残っているほど悲しいことって、そうはないですよね。

でも、そんなことを考えながら掃除をしていると、いつの間にか故人の残していった汚れに対する嫌悪感というものは消え去っていました。

彼がどこかから拾って来たのであろうテーブルに彼が好きだった煙草を立てて清掃の終わりとするときには、なんとなく死というものに対しての手触りが変わっているような気さえしたものです。

人は大抵の場合、死に方も死に場所も選べない。そして、どんな事情があれ僕の管理する物件に住んでいた以上はお客様です。死んだお客様を迷惑がったり気持ち悪がったりするのって、あんまりマトモなこととは言えないですよね。皆さんもいずれは死ぬわけですから、これはご理解いただけるお話だと思います。誰もが家族に看取られて病院で死ねるわけではない。独り、賃貸のお部屋で死んでいくというのも人間の死のありようで、それは避けようもないことですし、殊更に悲しむべきことだとは思いません。

こんな出来事があって以来、僕は人の死が残していくものにあまり嫌悪感を抱かなくなりました。以来、ちょくちょくオゾン発生器(脱臭に効果的です)や清掃道具一式を持って現場に向かったものです。人は死ぬのが当たり前なのだから、嫌悪するのはおかしい。そういう風に僕は考えています。

安心して死ねる社会であるべきだと思います。

あなたは死ぬ可能性が
高いので部屋は貸せません

ところで、我々不動産屋さんが一番「これは厳しい」と感じるのはお年寄りのお部屋探しです。現在居住しているお部屋から何らかの事情で退去された70代、80代の方などは、新しいお部屋を見つけるのに非常に苦労するでしょう。年金収入や銀行預金がそれなりの額あっても、大家さんが非常に嫌がるのです。親族が遠隔地に住んでいたりすると更に厳しいことになります。

でも、高齢者の方というのはトラブル率で言えばそう高くありません。若者のように友達を連れ込んで一晩中大騒ぎみたいな事例はあまりないと言えます。家賃の払い忘れは引き落としを設定しておけば問題ありません。最近の70代くらいの方は大体元気で、一人暮らしに問題があるとも限らないです。では、一体何が問題なのか。

部屋で死ぬ可能性が高いからです。

そう、いわゆる孤独死の問題です。最近は「事故物件」という言葉も有名になり、事故物件情報を専門に扱うサイトまで登場したので皆さんもご存じだと思いますが、人が死んだお部屋というのは基本的に嫌がられます。自然死の場合は告知義務(この部屋で人が亡くなりましたと伝える義務)は無いのですが、それでもやはり入居後にお客様の知るところになると問題になりかねないので、お伝えする大家さんが多いですね。

そして、人というのは有機物です。お亡くなりになったあと時間が経てば当然腐敗します。おわかりですね、夏場とかだとそりゃあもうすごいことになったりします。周辺住人からの異臭クレームで発覚というのも決して珍しいことではありません。僕自身も何度か遭遇したことがあります。そうなると、お部屋の家賃は下げざるを得ませんし、最悪不動産そのものの価値にも影響が出ることがあります。

しかし、高齢化社会の進展に伴って高齢者の独居世帯はどんどん増えています。これは不動産屋の肌感覚としても非常に強く感じることです。

それと同時に「高齢者お断り」の大家さんも増えているように思います。

おかしいことは変えようぜ?

僕は基本的に、独居可能な能力を持っているお年寄りに家を貸さないというのは、あまりマトモなことではないと思います。もっと言えば、部屋で人が死んだから家賃や不動産価値が下がるというのもおかしなことだと思います。

だって、人って死ぬんですよ。

人間なんて毎年140万人くらい死んでいます。タタリなんてものがあるとしたら、この世はタタリで埋め尽くされています。僕だって、あなただって、死ぬんです。たまたま、死んだあとすぐ見つけて貰えた方以外は、その場で腐っていきます。

当たり前のことじゃないですかこんなの。
リンゴが地面に落ちるくらい当たり前のことです。

人は老いて、あるいは病で、あるいは事故で死ぬ。

これだけ独居世帯が増えれば孤独死も増えるでしょう。だからどうしたというのだ? と僕は心から思うのです。

皆さんがちゃんとお家賃を払っていた部屋で不慮の死をとげたとして、不動産屋や大家さんが気持ち悪がっていたら嫌だなと思いませんか?そんなのしょうがないだろ、と感じますよね。その視点を他人に向けてあげることも出来ると思います。みんな死ぬんだ、お互い様です。

「死」というものをあまりに忌避し過ぎるところが日本にはあると思います。

これはすなわち「現実的な対策が打てない」という方向にもつながります。

例えば、「◯日ドアが開かなかったら管理会社に警報が鳴る」というシステムを作るのはそう難しくありません。これが鳴ったら携帯電話に連絡を入れ、繋がらなければ緊急連絡先に電話する。たったこれだけのルーチンで、いわゆる腐乱死体の発生はほぼ抑えられるはずなのです。

しかし、「あなたがうっかり孤独死した場合に備えてこういうシステムをつけさせてください」とはなかなか言い出せない。

現実的に考えると怒るお客様が多いと思います。結果として、高齢者に部屋が貸せないという事態が起きているというところはあります。

また、「家賃を払わないリスクがあるから部屋を貸せない」というのもおかしなことです。

人は怪我もすれば病気になることもある。
収入が途絶えることは誰しもありえます。

家賃を払わない住人を部屋から追い出すには、数か月の未払いを確定させてから裁判を起こすしかないという法律は、賃借人の保護のためのものなのでしょうが、結果的に「高齢者や貧困層は部屋が借りられない」という現実を引き起こしています。

「追い出せない」なら「貸さない」が防衛手段になるのは当たり前ですよね。

ネットカフェ難民なんて単語が一時話題になりましたが、あれはまさしくこのシステムが生み出した「難民」です。ネットカフェの代金は、通常のお部屋より高くつきます。あの生活を続けながら人生を立て直すのは非常に困難といえるでしょう。

人が暮らすには部屋が必要です。しかし、現状はどんどん厳しくなっています。僕も、最近は「老後の家」について結構マジメに考えざるを得なくなりました。僕に住宅ローンを貸す金融機関があるとは思えないので、現実的な対応策はあまり見えないのですが。社会に対して「変えようぜ」と呼びかけつつも、個人ベースでの対策もやはり必要だと思います。

屋根を失う心配のない社会、安心して孤独死できる社会。

そういうのがいいな、と僕は思います。皆さんはどうですか?

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プロフィール

ハルオサン
ハルオサン
警察官クビになってからブログ
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ブラック企業での壮絶な体験、波乱万丈な私生活を、自身のブログで紹介して話題に。
人気のブログが書籍化された『天国に一番近い会社に勤めていた話』も読者から高い評価を得ている。
現在は沖縄に移住し、『警察官クビになってからブログ』のほか、新聞や雑誌にコラムを掲載するなど活躍中。

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発達障害就労日誌
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金融機関への就職、起業を経験後、実体験を踏まえたTwitterでの発言が多くの共感を呼ぶ。
現在は営業マンとして働きつつ、Twitterやブログを発信、フリーライターとしても活躍中。
ブログをもとにした著書『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』は、大人の発達障害への向き合い方、解決策を示したライフハック本。

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