定年退職・退職金
定年退職の年齢は60歳から65歳へ!引き上げの理由と法律の改正

定年退職の年齢は60歳から65歳へ!引き上げの理由と法律の改正

みなさんは、定年退職の年齢について考えたことはあるでしょうか?定年退職の年齢は65歳で決められていると、イメージしているかもしれませんが実は違います。また定年退職の制度自体、将来変わっている可能性もあります。

定年については誰もが知っている所ですが、定年年齢の制度や課題の詳細について分からないことが多いですよね。

そこで今回は、定年退職制度と定年年齢に関する基礎知識、高年齢者雇用安定法の仕組みや引き上げ理由について説明していきます。

将来訪れる定年退職や定年退職制度について、この機会にしっかり考えてみましょう。

定年退職の年齢は60歳とする企業が約79%

定年退職については良く考えることが多いですが、定年年齢については考える機会が少ないですよね。しかし、今後定年退職制度が変わる可能性もあるので、覚えておくと後々役立ちますよ。

それでは定年年齢の平均と役職ごとの定年年齢について説明していきましょう。

定年年齢は法律とともに変化

定年退職制度は現在60歳より下の設定にすることはできないので、59歳以下を定年退職にすることはできません。

その後も以下の流れで定年年齢を法律の改正と共に推移してきました。

年数 内容
1986年 定年年齢を60歳にすることを努力義務とする
1990年 定年退職後の再雇用についても努力義務とする
1994年 60歳未満を定年とすることを禁止
2000年 65歳までの雇用を努力義務とする
2004年 65歳までの雇用に段階的な義務を課す
2012年 希望者は65歳まで雇用継続できるよう義務を課す
努力義務とは
日本の法律上、努力義務と規定された項目に関しては、その項目に沿って努めなければいけませんが、違反もしくは履行しなくとも刑罰や罰金等は受けない事を指します。

このように定年年齢は過去何度か法改正が行われていて、1986年に定年を60歳とすることを努力義務としました。

定年年齢は数年ごとに少しずつ引き上げられていて、現在では70代の定年年齢についても議論されています。

厚労省の「平成29年就労条件総合調査 結果の概況」によると、現在の定年年齢は60歳に設定する企業が約79%ともっとも多く、次いで65歳が約16%でした。しかし年々、定年年齢を65歳に設定する企業が増加しています。

定年退職の年齢は役職によって違いがあり役職定年制度を設けている

いわゆる大企業と呼ばれる企業などでは、定年前に役職を外し別の仕事を担当させながら定年を迎える、役職定年制度を設けています。

また、具体的に以下のような規定があります。

  • 部長など役職のある社員は役職定年制度の対象となる
  • 企業が設定した年齢に達した場合、役職から外される
  • 制度適用後は一般的に役職手当が無くなり、給与も減額となる

なぜ役職を外す役職定年制度が設けられているのか、その大きな理由は55歳定年から60歳定年へと変化したからです。

定年年齢が60歳未満禁止となる前は、多くの企業で55歳定年を基準として退職金など様々な試算をしていました。しかし60歳未満の定年は禁止となったため、給与を少なくとも5年間伸ばす必要がありましたが、その予算が不足したので役職定年制度を設けました。

ちなみに役員の場合は、定年が設けられていないので企業によって定年の有無など違いがあります。

定年が設けられている企業もあれば、定年がなく本人の意思によって任意の時期に定年退職が可能な企業があります。

定年年齢が何度も法律改正されていたとは知りませんでした!それに役員は定年について自由なんですね。そういえばパートやアルバイトの場合は、定年退職や定年年齢は決められているのですか?
パートやアルバイトの定年は企業によって違いがあります。しかし多くは雇用期間が短いため、定年退職制度自体を設けていないことが多いですね。

高年齢者雇用安定法によって定年年齢や引き上げが定められている

ここからは定年年齢や雇用について定めている、法律と制度について説明していきます。

定年年齢や制度は、普段の生活で知る機会がないので分からない部分が多いと思いますが、それぞれの制度を分けて考えると理解しやすいですよ。

まず2018年現在の定年年齢に関する法律を簡単に説明しますと、60歳を下回る年齢で定年を設けてはいけないと定められています。つまり59歳以下を定年年齢として、定年退職させることは法律上禁止されているということです。

では定年年齢の上限についてですが、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)が平成25年に一部改正・施行され、以下の3つの措置を取るよう企業に義務付けています。

  • 65歳まで定年を引き上げる
  • 65歳まで継続雇用制度を適用
  • 定年を廃止する

昨今、定年年齢の引き上げについて議論されていますが、既に65歳までは法律で引き上げることが可能となっており、定年の廃止も許可されています。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律とは、少子高齢化社会が急速に進んでいる現状を受けて、若者や女性、高齢者など全ての人が長く働けるための環境を作る一環として定められたものです。

例えば、定年年齢の引き上げや継続雇用制度の普及促進も、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律が関連しています。

継続雇用制度は定年年齢後も働き続けるための制度

定年退職と関連した制度として、よく耳にするのが継続雇用制度、再雇用制度、勤務延長制度ではないでしょうか。

それぞれ似たような制度ですがニュアンスや意味が違うので、それぞれの制度内容を理解しておきましょう。

継続雇用制度

継続雇用制度は雇用されている方が定年退職となった際に、希望すれば定年後も引き続き働き続けることができる制度を指します。

また継続雇用制度という大きな枠組みの中に、再雇用制度や勤務延長制度などが含まれているイメージです。ですので、再雇用制度は継続雇用制度の1つという表現が適切です。

再雇用制度

再雇用制度とは定年退職を経て一旦雇用が解除されたのちに、同じ企業に契約社員もしくは嘱託職員として雇用されて働き続ける形態のことです。

勤務延長制

勤務延長制とは定年年齢を迎えても定年退職せず、そのまま正社員として働き続ける形態です。ただし給与は何割か下げられるのが一般的となっています。

継続雇用制度でそのまま働き続けられるなんて良いじゃん!再雇用制度と勤務延長制度のどっちを利用している例が多いの?もし選べるならどっちがお得になるわけ?
再雇用制度と勤務延長制度のどちらが得だということではありません。勤務形態に関する違いはありますが、実際は各企業が提示する条件によって、どちらが社員にとって良いか変わります。ただ割合については再雇用制度を用意している企業の方が多いですね。

定年年齢の引き上げは少子高齢化社会による労働力不足が関係

テレビや新聞などで、定年年齢の段階的引き上げや引き上げに関する議論を見たり聞いたりしたことがありますよね。

何となく定年年齢の引き上げについて、頭の片隅にある方が多いかと思いますが今働いている全ての方にとって大切な制度です。ですから、定年年齢の引き上げ理由や各職業の定年年齢について知っておく必要があります。

定年年齢の引き上げ理由の1つは少子高齢化社会による労働力不足

定年年齢が数年から数10年ごとに、引き上げられている理由は少子高齢化による人口減少と、人口減少に伴う社会保障制度の課題が大きくなっているからです。

更に整理しますと以下の理由が、定年年齢の引き上げに関係しています。

  • 厚生年金支給開始年齢の引き上げ
  • 高齢化社会を活用し、高齢者の蓄積した技術を活用
  • 少子化に歯止めが利かないため労働力の確保対策の一環

特に大きな理由として挙げられるのが、厚生年金支給開始年齢の引き上げです。少子高齢化社会が急速に進んでいることや、経済の低成長時代によって社会保障費の予算を十分に確保できず、結果的に厚生年金の支給開始年齢を引き上げて国家予算の負担軽減を考えています。

そして、厚生年金支給開始年齢が65歳に引き上げられたことで、課題となるのがこれまで60歳を定年年齢と定めていた会社員や公務員の生計維持です。

定年年齢が60歳ですと、60から65歳まで年金支給もなく生活が厳しい状況となります。

対策として、2019年度から定年年齢を65歳へ段階的に引き上げる検討に入っています。

また高齢化社会の状況を短期間で改善することはできないので、一時的な対応策として高齢者のノウハウや技術を引き続き企業で活用して欲しいという考えもあります。

更に少子化も同時に進んでいるため、労働力確保という側面もありますが、こちらに関しては外国人労働者を増やして対応する案も検討されています。

そして定年年齢について政府の見解ですが、2019年度から公務員の定年年齢を段階的に引き上げて、65歳にすることを検討しているとのことです。しかし、定年年齢引き上げによる人件費の増加についても疑問視されています。

「定年年齢がいくつになるのか」「それに伴う年金や制度の変更」などについては、次の記事で詳しくまとめています。

定年年齢は国家公務員や地方公務員など職業によって違いがある

定年年齢は、公務員の中でも国家公務員や地方公務員、自衛隊など職業によって若干の違いがあります。そこで、以下に各職業別の定年年齢を表で並べていきます。

国家公務員 60歳、2033年度に向けて制度変更を検討
地方公務員 60歳、2033年度に向けて制度変更を検討
自衛隊 53歳から60歳(階級によって違う)
教員(教師) 60歳、再雇用制度によって65歳まで延長

国家公務員及び地方公務員の定年年齢は、2018年現在60歳と定められていますが制度変更を政府が検討中となっています。それが、表にも記載している2033年度に向けて徐々に定年年齢を引き上げる、定年制度の変更案です。

同じ公務員でも自衛隊の定年年齢は階級をベースにした独自の制度となっています。一般的な公務員とは違うので気を付けましょう。

定年年齢って企業と公務員で違いがあるんだね。しかもこれから定年年齢が、段階的引き上げの可能性があるなんて知らなかったよ。そういえば公務員の定年年齢が引き上げられたら、その分退職金も増えるのかな?
公務員の定年年齢に関する変更案は、正式に決定・実行されていませんので具体的な内容について発表されていません。しかし退職金を決める人事院の方針としては、60歳を超えた後の退職金に関する計算は7割程に抑えて減額する案を検討しています。

人口減少は加速で定年制度がなくなる可能性も

先進国の中でも特に少子高齢化社会が進んでいる日本では、定年年齢の引き上げなど制度変更を検討しています。

そして多くの方は、今後の日本で定年制度がどのように推移していくか、気になるところではないでしょうか。

ここでは海外の定年制度を説明しながら、日本の定年制度がどのように変化していくことが予測されるか、1つのパターンを紹介していきます。

海外の定年制度についてですが、アメリカとイギリス、カナダなどは定年廃止となっています。世界でも珍しい定年廃止の理由の1つは、年齢による差別という背景から定年年齢を国が定めないようにしているからです。

次に海外の中でも地理的に近いアジア圏ですが、各国で定年年齢に違いがあります。一部を以下に紹介します。

  • タイでは定年年齢60歳(2017年に60歳へ定年年齢を引き上げ)
  • シンガポールでは定年年齢62歳
  • インドネシアでは定年年齢56歳

続いては日本に近い定年年齢を定めている国で、ドイツやフランスが代表的です。しかしドイツとフランスは、社会保障費の財源確保などの一環として、段階的に67歳まで引き上げることが決まっています。

ドイツは2029年までで、フランスは2023年までに引き上げる予定です。

日本に住んでいると、世界の事情について知る機会が少ないですが、実は世界的にも定年年齢について様々な課題を抱えている状態となっています。

全体的な傾向としては定年廃止もしくは、定年年齢の引き上げとなっていて、定年年齢の引き下げはほとんどありません。

以上の現状を見て日本の定年制度について予測した場合、少なくとも65歳が定年となることが固定されることが考えられます。また、少子高齢化が止まる可能性は少ないので、段階的に70歳まで引き上げられる可能性も0ではないでしょう。

もしさらに定年年齢が引き上げられて、年金制度も廃止になったらどうすればいいのかしら?
現時点で定年年齢や、それに伴う年金制度の見通しを予測することは難しいです。だからこそ定年制度について、逐一情報をチェックすることが大切ですよ。

定年制度については今後厳しい状況が続くため各々対策が必要

定年年齢については、政府が引き上げを検討していますが、少子高齢化など短期的に課題解決できない事象が今も起きていることが理由となっています。

また定年年齢が引き上げられたからといって、年金で大幅に優遇されることも期待しにくいですし、再雇用における待遇が一概に良くなるわけではありません。

視点を変えて海外の定年制度について確認してみると、アメリカやイギリスなどは既に廃止していますし、ドイツやフランスなどは定年年齢の引き上げが決まっています。

定年年齢に関する課題は日本に限らず、世界でも試行錯誤している内容といえるでしょう。

個人でできる対策としては現役世代のうちに、資産を作っておくことや定年後の再雇用について計画を立てて考えることが大切ですよ。