定年離婚は老後資金に影響する?退職金・年金の財産分与と注意点
定年離婚という言葉を聞いたことはありますか?近年、定年を機に熟年離婚するケースが増えていて、妻から夫に対して・夫から妻に対して両方のケースがあります。
なぜ定年を機に長年連れ添った夫婦が離婚を選択するのか、様々な点で疑問を感じる所ですよね。また、定年という大きな節目でもあるので、年金や退職金などの財産分与について重要な問題も発生しますし、金銭的な面も気になるところです。
そこで今回は、定年離婚の原因やメリット・デメリット、更に定年離婚した場合の財産分与や生活についても詳しく解説していきます。
定年離婚や離婚後の生活や年金について一度この機会に考えてみてくださいね。
定年離婚が起こりやすい理由は様々
まずは定年離婚や熟年離婚の意味や、なぜ定年離婚が起こりやすいのか理由について分かりやすく解説していきます。
定年後の離婚や熟年離婚は生活環境や性格などが原因の1つ
熟年離婚とは20年以上夫婦関係にあった方達が、離婚するケースのことで定年離婚はその中でも定年後や定年と同時に離婚することを指しています。
離婚自体は、それぞれの夫婦ごとの家庭内事情があり、時期について様々です。しかし近年、定年後や定年と同時に離婚する、熟年離婚あるいは定年離婚と呼ばれるケースが増えています。
そして定年離婚には理由が複数存在します。
- 定年後に夫が家に1日いるので耐えられない
- 定年後に1日一緒に居ることで目立つ性格の不一致
- 夫や妻どちらかの不倫
- 以前からDVやモラハラなどを受けていた
- 定年退職金や年金のために夫婦生活を我慢していた
- 姑との価値観の相違や夫との不仲
上記のように性格の不一致や、定年後一緒に過ごす時間が増えたことが主な原因といえます。また、定年後に長く顔を合わせる事で不満が溜まる場合と、以前から溜まっていた不満が定年という節目に離婚という形で現れる2パターンが特徴的です。
妻が夫の定年退職時期に合わせて離婚を切り出す理由としては、退職金や年金等の財産分与を得るためということも原因の1つです。
他には夫のアルコール依存症によって暴力を振るわれることや、ギャンブル依存によって生活が苦しくなるなど様々な理由によって、熟年離婚や定年離婚するケースもあります。
マイナスなイメージも多いですが、定年離婚をすることによって長年のストレスが解消されることも考えると、離婚の必要性も感じるでしょう。
特にDVやモラハラなど、命に関わることであれば早急に離婚へ向け準備や、弁護士や警察などに相談することが必要です。
定年離婚をした場合、年金と退職金は財産分与の対象となる
続いては夫が定年離婚した場合の、退職金や年金の取り扱いについて分かりやすく解説していきます。いわゆる財産分与に関することなのですが、法律改正によって一部規定が変わっている点にも注目です。
離婚したとき、年金は財産分割の対象となる
定年後に離婚した場合の、年金についての取り扱いを解説していきます。
一般的なイメージでは、定年後の熟年離婚をした場合、妻が夫の年金の半分や、一部が貰えるものと考えているケースもあります。しかし、実際は違いますので内容をしっかり押さえておきましょう。
まず年金には、以下のように5種類に分かれています。
- 国民年金
- 厚生年金(共済年金は平成27年に厚生年金に一元化)
- 国民年金基金
- 厚生年金基金
- 企業年金
1つ目の国民年金は学生や自営業者、主婦や会社員など全ての方が加入する年金で基礎年金とも呼ばれています。
2つ目は会社員や公務員に属する方に加入義務がある厚生年金で、国民年金に上乗せされる形で受給します。
少子高齢化などによる財源確保を目的とした、新たな枠組みを作るためで、保険料率など細かな違いは、全て厚生年金の規約に沿う形になったのです。
1つ目と2つ目に関しては、公的年金と呼ばれるもので、日本に住む20歳から60歳までの方全てが加入しなくてはいけない年金のことを指します。
次に3つ目は、企業年金や厚生年金基金、国民年金基金で私的年金に分類されます。企業年金や厚生年金基金は、会社が年金機関を立ち上げて運営・管理しており、会社員が加入できます。
国民年金基金も民間の企業や保険会社が立ち上げた機関で、こちらは自営業やフリーランスの方を対象にしたサービスになっています。
私的年金と公的年金は運用条件や運用元に大きな違いが有ります。
次に定年離婚時の年金に関する財産分与についてですが、厚生年金のみが対象となっており、国民年金や私的年金は財産分与の対象外です。
財産分与時に受け取れる年金の金額については、婚姻期間のみと定められているので、仮に年金の支払い期間が30年としても、婚姻期間が10年であれば10年分の財産分与しか認められません。
離婚したときの年金分割方式
離婚した場合、以下のような年金の分割方式となります。
- 合意分割制度
- 3号分割制度
合意分割制度
合意分割制度とは、離婚時に夫婦どちらかが求める事によって、婚姻期間の年金に関して財産分与ができる制度です。年金をどのように分割するかは、裁判所で決めるのですが最大で2分の1までと定められています。
3号分割制度
3号分割制度は、第3号被保険者となる妻や夫のどちらかが任意で求めることができます。申請することで配偶者の厚生年金の受取額2分の1を得られる制度です。申請にあたって夫婦の合意や公正証書の作成は不要です。
第2号被保険者(厚生年金加入対象者)の対象者に扶養されている配偶者(年収130万円以下)を指しています。第2号被保険者が定年退職した場合、配偶者は第1号被保険者(専業主婦や学生、自営業)となります。
3号分割制度で認められている離婚とは、離婚手続きが成立・婚姻の取り消し(詐欺等による婚姻の解消)・事実婚の解消が認められた場合・離婚手続きが完了していないが離婚の事実が認められた4ケースを指しています。
条件に当てはまれば妻のみでなく、夫からも請求が可能です。例えば夫が第2号被保険者で妻が第3号被保険者であった場合や、妻が第2号被保険者で夫が第3号被保険者のケースで適用されます。
性別による違いはありませんので、勘違いしないように気を付けましょう。
- 対象期間に当てはまること(平成20年4月1日以降の婚姻期間中から離婚が成立した日まで)
- 夫婦どちらかが第3号被保険者である
定年離婚において退職金は財産分与の対象として認められている
退職金の財産分与を理解する上でポイントとなるのが、退職金が給与と同等の取り扱いという点です。具体的には、給与の後払いとして受け取っているという、考え方なので財産分与の対象になります。ここでは2つのケースに分けて紹介しましょう。
(1)定年後に離婚した時、既に退職金を受け取った場合
こちらの場合は、財産分与の金額を計算できるので、配偶者(多くは妻)が受け取ることができる財産を把握できます。また、計算に必要な項目は、以下の2項目となります。
- 婚姻期間
- 勤務年数
婚姻期間と勤務年数によって、定年後の熟年離婚をした際に配偶者が受け取ることができる退職金が変わってきます。
(2)退職金を受け取っていないが、将来的に受け取ることが決まっている熟年離婚の状態
状況としては若年離婚の場合も当てはまりますが、今回は熟年離婚に焦点を当てて解説します。
仮に定年間近で、尚且つ退職金の金額や受け取りが決まっていた場合、配偶者である妻は近い将来夫が受け取る退職金を財産分与にして、一定の割合貰うことができます。
分割の割合は、1つ目のケースと同じように主に婚姻期間で算出します。
注意点として、年金分割制度も退職金の財産分与の金額計算も専門的な内容になるので、弁護士に相談するのが適切です。
定年後の熟年離婚におけるメリットとデメリット
定年離婚もしくは熟年離婚をする場合、懸念されることはシニア世代になってからの離婚後の生活についてではないでしょうか。何10年と連れ添ったパートナーと別れて、新しい生活を始める事によって、発生するメリットとデメリットについていくつか解説していきます。
定年後の離婚によるメリットは自由な生活ができる
定年を迎えて熟年離婚をする場合に生じるメリットから解説していきます。
主なメリットは以下が挙げられます。基本的にストレスから解放されるといった、精神的メリットの多いことが分かります。
- 夫(妻)と1日顔を合わせる必要がなくなる
- 姑や相手の家族などの介護等をしなくてよい
- 妻の面倒を見なくてもよい
- 夫の世話をしなくてよい
冒頭でも解説していますが熟年離婚や定年後の離婚の原因の1つは、夫が1日家にいる事による妻側の大きなストレスです。また、お互い一緒にいる時間が増える事で、改めてお互いの行動や考え方の違いに気付き、ストレスが溜まることもあります。
このような定年退職を機に変化する生活環境によって、夫婦生活に限界が来るケースが多いです。そのような時、ムリに我慢して心身共に不調をきたすよりかは、定年後に年金分割や退職金の財産分与を行って、お互い別々の生活を送った方がいいこともあります。
また、夫が家に1日いることによる不満は妻が感じている部分ですが、実際は定年前から積もり積もった様々な出来事によって、定年後に限界となることが多いです。
定年後の熟年離婚によるデメリットは生活費の負担など
続いては定年後に熟年離婚するデメリットを以下に並べていきます。
- 長年夫婦一緒に暮らしていた反動で孤独感が増しやすい
- 夫や妻どちらも生活費など経済的負担が増える
- 相続に関する問題
- 子供や周囲の親族に与える心配
定年後の熟年離婚によるメリットとは違って、心理的、金銭的、周囲の心配など様々なデメリット要素が含まれているのが特徴的です。
特に経済的な負担増は、妻にとって重要な問題といえるのではないでしょうか。
夫は、再就職などの手段が残されていますが、仮に妻がパートの仕事をしていたとしても収入格差が生じる可能性はあります。ですので、前の項目で解説したように財産分与による収入補填を速やかに行う必要があります。勿論、立場が逆で夫の方が収入面で苦しい場合もあります。その場合も同様に財産分与を活用することが大切です。
また、近年では孤独死も社会問題となっており、夫や妻どちらも別々にマンションやアパートに1人暮らしとなった場合、孤独感だけでなく万が一の事態に助けを呼ぶことが難しい状況の対策も必要となります。
そのためにも親族や子供に、定年後の熟年離婚の詳細や離婚後の別居生活について、相談しておくことが非常に大切です。
精神的な面ではメリットが多い熟年離婚ですが、一方で生活が厳しくなるというリスクも考慮しなくてはいけません。
定年離婚ではなく卒婚を選ぶ夫婦も
定年後の熟年離婚について詳しく解説してきましたが、一方で卒婚と呼ばれる夫婦の在り方についても注目されています。そこで、ここでは定年後の熟年離婚ではなく、定年後の卒婚について意味や特徴について解説していきます。
定年離婚をするほど不仲や不満が有る訳でもなく、かといって今後長い期間夫婦で同じ時間を過ごすのが難しいと感じる夫婦の場合は、卒婚の準備もしておくといいでしょう。
夫婦が離婚せず、別々の新しい生き方を進んでいくという意味です。
つまり夫婦が婚姻関係を維持したまま、別居という形でそれぞれ生活していくことも卒婚と呼ぶことができます。
勘違いしやすいですが、不仲で別居状態になるのとは全く意味が違うので気を付けましょう。
卒婚を行う夫婦関係は良好な状態でして、1人の時間を楽しむ生活を送りたいという前向きな気持ちが前提です。
また、前述の例では別居の場合を紹介しましたが、卒婚では同居したままの夫婦もいらっしゃいます。
定年後の生活について様々な準備をしている夫婦の方達は、同居のまま卒婚という新しい生き方について模索してみるのもよいのではないでしょうか。定年後に趣味を楽しむ準備している方もいるかもしれませんが、趣味にのめりこむと夫もしくは妻から苦言を呈される可能性もあります。
卒婚は同居、別居どちらの状態でもいいので、別居の準備が面倒な方は同居状態でも構いませんし、夫の定年退職と同時に新しい生活をスタートしたい妻が別居してみるライフスタイルもありでしょう。
定年後の熟年離婚はよく考えた上でお互い決めるのが適切
また、配偶者である妻が熟年離婚に関する準備していても、正当な理由がなければ双方同意の場合以外で離婚することはできない事情があります。ですので、そもそも定年後の熟年離婚について夫婦で認識が合っているか話し合うことも必要になります。
更に今回紹介した卒婚という方法の方が、夫婦にとって合っているのであればそちらも検討してみるのがいいですよ。経済的な負担も抑えやすいというメリットがあるからです。
最後に、離婚を検討している場合は様々な手続きが必要ですので、まず弁護士など専門家に相談するのが大切です。