中小企業退職金共済とは?仕組みからわかる利用メリット・デメリット
中小企業で働いている方の退職金制度と言えば「中小企業退職金共済(略して「中退共」)」ですね。
この記事では「中退共とはどのような特徴のある制度なのか?」「退職金はどのように計算されてもらうことができるのか?」「退職金の受け取り方は?」「受け取った際、税金はかかるのか?」など、中退共の基本的な内容からメリット・デメリットまでご紹介しています。
退職金は老後の大切な資金の一つ。加入している方や加入予定の方はぜひこの記事を読んで、あなたがもらえる退職金について一度考えてみてくださいね。
中小企業退職金共済は中小企業や零細企業のために作られた国の制度
中小企業退職金共済制度は、昭和34年に国の中小企業対策の一つとして制定された「中小企業退職金共済法」に基づいて創設された制度です。
中小企業退職金共済法は、中小企業や零細企業が単独で退職金制度をもつことが難しいことから、中小企業者の相互扶助の精神と国の援助によって退職金制度を確立。中小企業の従業員の福祉増進や雇用の安定、そして中小企業の振興を助けることなどを目的としています。
つまり中小企業退職金共済制度の主な目的は、中小企業や零細企業の退職金制度の確立であるといえます。
中退共は「安心・確実・有利」な制度!5つの特徴をチェック
中小企業退職金制度は、法律に基づいた国の制度であるため、「安心・確実・有利」な制度です。では、具体的な制度の仕組みと5つの特徴についてみてみましょう。
中退共は中退共本部が運営している
中小企業退職金制度の運営を行っているのが独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共本部)です。
中退共は「中退共に加入している会社の従業員」が「中退共本部」と「退職金共済契約」を結ぶことによって加入することができます。
掛金は従業員ごとの「契約成立日」の属する月分から「退職日」の属する月分までを毎月、会社が指定した預金口座から、原則毎月18日に振り替えることによって納付されます。
つまり中小企業退職金制度の掛金は全額会社が負担です。
そして会社からの「退職届」により、退職した従業員の掛金振替は中止され、退職した従業員の「請求書」に基づいて、退職した従業員の預金口座に退職金が振り込まれます。
特徴1.中退共に加入できる企業の条件
加入できる企業は、業種によって異なり、常時雇用する従業員数または資本金の額・出資の総額 のいずれかが次の範囲内であれば加入することができます。ただし、個人企業や公益法人などの場合は、常時雇用する従業員数(※)によります。
業種 | 常用従業員数/資本金・出資金 |
---|---|
一般事業(製造・建設業など) | 300人以下または3億円以下 |
卸売業 | 100人以下または1億円以下 |
サービス業 | 100人以下または5千万円以下 |
小売業 | 50人以下または5千万円以下 |
特徴2.中退共に加入できる従業員の条件
会社は原則として従業員全員を加入させる必要があります。ただし、次の条件に該当する従業員については加入させる必要はありません。
- 期間を定めて雇用される者
- 季節的業務に雇用される者
- 試用期間中の者
- 短時間労働者
- 休職期間中の者
- 定年などで短期間内に退職することが明らかな者
なお、事業主や小規模企業共済制度に加入している方、法人の役員(兼務役員を除く)、特定業種退職金共済制度に加入している従業員などは加入することはできません。
特徴3.掛金月額の助成制度
初めて中小企業退職金制度に加入する会社や掛金月額を増額する会社に掛金の一部を国が助成してくれます。
初めて中退共制度に加入する会社
加入後4ヶ月目から1年間、国から加入している従業員の掛金月額の1/2(従業員1人あたり上限5,000円)を助成してもらうことができます。 また短時間労働者の特例掛金月額は次のとおりです。
特例掛金月額 | 助成金額 |
---|---|
月額2,000円 | 1,300円 |
月額3,000円 | 1,900円 |
月額4,000円 | 2,500円 |
掛金月額を増額変更する会社
増額する月から1年間、国に増額分の1/3を助成してもらうことができます。ただし20,000円以上の掛金月額からの増額は、助成の対象になりません。
なお新規加入助成期間中に増額変更する場合は、「新規加入助成」と「月額変更助成」を併用して助成を受けることができます。
特徴4.掛金は全額非課税
中退共の掛金は法人企業の場合は損金、個人企業の場合は必要経費として全額非課税となります。
一方で資本金または出資総額が1億円を超える法人の法人事業税には、外形標準課税が適用されます。
特徴5.退職金の受取方法
退職金は退職した従業員本人の請求に基づいて、中退共本部から直接、退職した従業員の口座に振り込まれます。
掛金の納付が1年未満の場合、退職者本人、会社のいずれも退職金を受け取ることはできません。
もし退職者が退職時に60歳以上であれば、一時金か、全部または一部を分割して受け取ることができます。税法上、一時金の場合は退職所得控除、分割の場合は公的年金等控除の対象となります。
中退共の退職金はどのように受け取れる?もらい方と税金の関係
ここでは、中退共ではどれほどの退職金をどのように受け取ることができるのか?税制面での優遇措置は受け取ることができるのかについて理解しましょう。
掛金月額の種類は5,000円~30,000円までの16種類。会社が従業員ごとに決定しています。加入後、社員あてに「加入通知書」や「退職金共済手帳」が発行されますので、まずは自分の掛金を確認してみましょう。
退職金の計算方法や金額は会社からの通知を見るのが確実
基本退職金とは
掛金月額と納付月数に応じて固定的に定められている金額で、予定運用利回りを1.0%として定められた額です。なお、予定運用利回りは、法令改正により変更することがあります。
付加退職金とは
運用収入の状況などに応じて定められる金額で、基本退職金に上乗せされるものです。掛金納付月数の43月目とその後12ヶ月ごとの基本退職金相当額に、厚生労働大臣が定める支給率を乗じて得た額を、退職時まで累計した総額です。
1年未満で退職した場合は1円ももらうことができないので要注意です。
中退共の退職金の支払い方法は3通り
中退共の退職金の支払い方法は3つあり、退職者が受け取り方を選択することができます。
退職金の支払方法には3つの方法があります。退職者のニーズに合わせて、いずれかを選択することができるんです。
一時金払い
退職時に退職金の全額を受け取ることができます。
分割払い
退職した日に60歳以上である場合に限って5年間の分割払い、または10年間の分割払いで受け取ることができます。
ただし5年間の場合は、退職金額が80万円以上、10年間の場合は150万円以上あることが必要です。
一時金と分割(併用払い)
退職した日に60歳以上である場合に限って5年間(4回/1年)の分割払い、または10年間(4回/1年)の分割払いで受け取ることができます。
ただし5年間の場合は、退職金額が100万円以上かつ分割払いの対象額が80万円以上、一時金払いの対象額が20万円以上あること、10年間の場合は170万円以上かつ分割払いの対象額が150万円以上、一時金払いの対象額が20万円以上あることが条件です。
なお分割して支払われる退職金の1回あたりの金額は次の計算式により算定された金額になります。
5年間分割払いの場合 | 退職金額×(1000分の51+厚生労働大臣の定める率) |
---|---|
10年間分割払いの場合 | 退職金額×(1000分の26+厚生労働大臣の定める率) |
中退共の退職金を受け取る場合も税制優遇がある
税額を計算する際、一時金の場合は退職所得控除額。分割の場合は公的年金等控除額を差し引くことができます。
通常、退職金を一時金で受け取る場合、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出する必要がありますが、中退共の場合は「退職金(解約手当金)請求書」上の「退職所得申告書欄」に記載することになります。
中退共と特退共の5つの違いについて
中小企業退職金共済制度には一般的な中小企業退職金共済制度(中退共)以外にも、特定業種退職金共済制度(特退共)があります。
- 建設業退職金共済制度(建退共制度)
- 清酒製造業退職金共済制度(清退共制度)
- 林業退職金共済制度(林退共制度)
加えて特退共ではありませんが、よく似た制度として社会福祉施設職員等退職手当共済制度もあります。
特定業種退職金共済制度(特退共)とは?
各共済機構と共済契約を締結した後、対象者の共済手帳に、働いた日数に応じて掛金となる共済証紙を貼って、対象者が引退した時に、各共済事業本部から直接退職金が支払われる制度です。
また社会福祉施設職員等退職手当共済制度は、社会福祉施設職員等退職手当共済法に基づいて、社会福祉法人が経営する社会福祉施設などで働く職員のための制度です。国家公務員退職手当制度に準じた計算により退職金が支払われます。
続いて中退共と特退共の主な違いについて説明しましょう。
1.運営主体が違う
中退共は、中退共本部が運営するのに対して、特退共は商工会議所や生命保険会社などが運営しています。生命保険会社は民間企業ですので破綻のリスクはあり得ます。
2.加入資格が違う
中退共は従業員数や資本金によって加入資格が決められていますが、特退共は事業所の所在地域の制限が決められている場合があります。
3.掛金月額が違う
中退共の掛金月額は5,000円(短時間労働者は2,000円)からですが、特退共は1,000円からとなっています。
4.掛金の助成が違う
中退共の場合、新規に加入した場合や掛金を増額した場合、会社負担が軽減される助成金制度がありますが、特退共の場合は原則、助成金制度はありません。
5.退職金の支払いが違う
加入期間が1年未満の場合、中退共は退職金の支払いはありませんが、特退共の場合は退職金の支払いがあります。ただし、加入期間が長期になった場合は中退共の方が退職金が多くなる傾向にあります。
ちなみに特退共と中退共は併用して加入することはできません。
中退共のメリットとデメリットを把握しておこう
メリットとしては次の要素があげられます。
・従業員が掛金を負担する必要がない
・退職金の額が確定している
・運用利回りが高ければ付加退職金が上乗せされる
・会社の経営状況が悪くなっても受給権が保護されている
・原則、退職理由によって金額が変わることがない
・中退共本部から直接退職金が振り込まれる
・退職金を受け取った際に税制面で優遇措置を受けることができる
一方デメリットとしては、「早期退職した場合は退職金をもらえないか、掛金より少ない」「懲戒解雇の場合は退職金が減額される可能性がある」などがあります。
中退共は従業員にとって長期加入すればお得な制度といえます。加入している人はぜひ現在の加入状況を確認してみてくださいね。