確定給付企業年金とはどんな退職金制度?わかりやすく内容を解説
会社から老後資金として受け取るものといえば、退職金や企業年金が思いつくのではないでしょうか?
一般的に退職金は一括で受け取るもの、企業年金は会社が決めた期間、分割して受け取ることができるものです。そして企業年金の中で最も多く利用されている制度が「確定給付企業年金」です。
確定給付企業年金は、会社の責任で給付額を準備してくれるから安心な制度だと思っていませんか?
しかし会社の存続や給料が約束されているとはいえない現在、確定給付企業年金も例外とはいえません。現役世代の今から理解しておくことが大切といえます。
この記事では確定給付企業年金の基本知識をはじめ、給付の種類やメリット・デメリットなどについてご紹介します。
確定給付企業年金とは?基本知識を理解しよう
確定給付企業年金は、受け取ることのできる金額が初めから確定している年金です。
ここでは確定給付企業年金について基本的な知識を理解しておきましょう。
確定給付企業年金は日本で最も多い企業年金制度
確定給付企業年金制度は、2002年4月より実施された確定給付企業年金法に基づいて創設された厚生労働省管轄の企業年金制度です。
この確定給付企業年金制度はどれくらいの方が加入している制度なのでしょうか?
企業年金連合会によると、2018年3月末日現在の確定給付企業年金制度の加入者数は約901万人となっており、現在日本で一番多く利用されている企業年金制度です。
加入者数の多い理由としては、2012年3月末で廃止された適格退職年金制度や、厚生年金基金から移行してきた企業が多かったためと考えられます。
そのため社員は確実に年金を受け取ることができる制度といえます。
掛金は原則会社負担、加入者が負担することもある
確定給付企業年金の資金元となる掛金は、誰がどのように拠出するのでしょうか?
確定給付企業年金の掛金は原則、会社が規約に応じて、年1回以上、定期的に生命保険会社や信託銀行または別法人の基金に拠出する必要があります。
掛金は次のいずれかによって拠出することができ、加入者の性別や年齢などに応じて定めることができます。
- 定額
- 給料等に一定率を乗じた額
- 1と2の組み合わせ
将来の年金額を増やすために、加入者の同意があれば2分の1を超えないことを条件に掛金を加入者に負担してもらうこともできますが、この場合の掛金は毎月の給料より控除されることになります。
掛金は最大4万円の生命保険料控除の対象となる
他に加入している生命保険の保険料額と合わせて年間4万円の控除を受けることができますので忘れないようにしましょう。
確定給付企業年金は規約型と基金型の2タイプ
まず確定給付企業年金には、次のとおり規約型と基金型の2つのタイプがあります。それぞれの違いを表で比較していきましょう。
規約型 | 基金型 | |
---|---|---|
開始の条件 | 労使合意された規約について厚生労働大臣の承認を得ること | 企業年金基金の設立について厚生労働大臣の認可を得ること |
加入者数要件 | なし | 300人以上 |
運営主体 | 会社の経理部・人事部など | 企業年金基金の理事・事務局など |
資産管理 | 生命保険会社や信託銀行など | 企業年金基金が中心 |
規約変更 | 労使の合意 | 代議員会 |
規約型と基金型で大きく異なる点はその仕組み、それぞれ紹介しましょう。
規約型の仕組み
規約型は会社と社員が合意した年金規約に基づいて、会社が契約を結んだ生命保険会社や信託会社等で年金資金の管理・運用・給付を行う企業年金です。
基金型の仕組み
基金型は別法人の企業年金基金を設立して、基金が年金資金の管理・運用・給付を行う企業年金です。
表の項目とも合わせ、双方の違いをしっかり理解しておきましょう。
確定給付企業年金の給付にまつわる4つのポイント
ここでは確定給付企業年金の給付について、押さえておきたい4つのポイントを解説していきます。
確定給付企業年金の給付額は変動する
そのため会社の業績や運用実績によっては給付額が減る可能性があるんです。他にも積立金や加入者数の大幅な減少によって給付額変更の可能性も考えられます。
老齢給付金は一時金でも受け取れる!給付金は課税の対象
確定給付企業年金の給付には「老齢給付金」「脱退一時金」「障害給付金」「遺族給付金」がありますが、ここでは老齢給付金がいつ、どのような形で受け取ることができるのかについて説明します。
老齢給付金は、加入者または加入者であった者が次のいずれかの要件を満たした場合に給付されます。
- 60歳~65歳の規約で定める年齢に達したとき
- 50歳以上65歳未満の規約で定める年齢に達した日以後に、会社を退職したとき(規約において定められている場合のみ)
老齢給付金は「年金」「一時金」「年金と一時金」のいずれかによって給付を受けることができます。
老齢給付金を年金で受け取る
老齢給付金を年金として受け取る場合は、60歳~65歳の範囲で規約に定める時期より、会社の定める期間(終身、一定期間(最低5年以上))毎年1回以上定期的に受け取ることができます。
老齢給付金を一時金で受け取る
老齢給付金を一時金(選択一時金)として受け取る場合は、原則として請求時または年金支給開始から5年経過日以後に受け取ることができます。
老齢給付金の一部を一時金で受け取る
老齢給付金の一部を一時金として受け取る場合は、25%、50%、75%の3種類の割合を一時金として受け取り、残りを年金として受け取ることも可能です。
年金給付の場合は雑所得として課税されますが、公的年金等控除の対象です。選択一時金の場合は退職所得として課税されますが、退職所得控除の対象となります。
転職や中途退職したら3つのケースから受け取り方法を選ぼう
1.脱退一時金として受け取る
脱退一時金として受け取るためには、勤続3年以上の場合に限ります。
基金型確定給付企業年金の場合は、一時金相当額を企業年金連合会へ移換して、老後に年金として受け取る方法もあります。
2.企業型確定拠出年金に移換する
転職先に確定拠出年金制度があることが必要ですが、一時金相当額を確定拠出年金に移換することができます。但し、転職先に確定給付企業年金制度があっても移換できません。
3.iDeCo(イデコ)に移換する
一定の要件を満たした場合、一時金相当額をiDeCoに移換することができます。
原則として、転職先に確定給付企業年金制度があった場合移換することはできません。ただしすでにiDeCoに加入していた方が転職した場合、確定給付企業年金の規約において認められていれば、iDeCoで運用していた資産を転職先の確定給付企業年金へ移換することが可能となります。
つまりiDeCoと確定給付企業年金を併用することも可能です。
掛金は全額所得控除、運用益は非課税扱い、受給時は退職所得控除または公的年金等控除の対象となっていますので、税制面でかなりメリットのある制度といえます。
老後資金の形成方法として注目されている制度の一つです。iDeCoについては「iDeCo(イデコ)完全ガイド!運用のポイントと注意点を徹底解説」で詳しく解説していますよ。
もしものときにもらえる障害給付金と遺族給付金
会社や基金のルールによって異なりますので、ご自身の会社のルールを確認しておくことが重要です。
確定給付企業年金と他の企業年金の違いを解説!
日本の公的年金制度は、3階建て構造になっており、1階は日本国民全員が加入する国民年金、2階はサラリーマンや公務員が加入する厚生年金、3階は一部のサラリーマンが加入する企業年金と公務員が加入する退職等年金給付に分かれています。
ここでは3階建て部分の企業年金に注目して、確定給付企業年金と他の企業年金との違いについて理解しておきましょう。
確定給付企業年金と企業型確定拠出年金の比較表
次にこの記事で紹介してきた「確定給付企業年金」と別の企業年金「確定拠出企業年金」の違いについて理解しておきましょう。
確定給付企業年金の仕組み
将来の給付額をあらかじめ決めた上で必要な掛金を、予定利率や平均余命などを考慮して計算し拠出する制度です。将来の給付額は確定しています。
会社が生命保険会社や信託銀行などに委託し、万一運用がうまくいかなかった場合でも、会社が給付額を保証します。
確定拠出企業年金の仕組み
掛金をあらかじめ決めた上で、将来の給付額は運用実績に応じて決まる制度。 なお、将来の給付額は変動します。
確定拠出企業年金は加入者が自己責任で金融商品を選択して運用します。運用がうまくいかなかった場合は、給付額が少なくなる一方、うまくいった場合は給付額が多くなります。
確定給付企業年金 | 確定拠出企業年金 | |
---|---|---|
年金資産の残高 | 加入者ごとの残高は把握できない | 加入者ごとに年金口座を持つため残高を把握できる |
転職後の取扱い | 転職後、継続することはできない | 転職先に同じ制度があれば、転職後も継続できる |
どちらの制度についても長所と短所があり、一概にどちらが良いとは言うことはできません。社員が勝手に制度を選ぶことはできませんが、それぞれの制度の特徴を理解しておくことはご自身の老後資金形成のヒントになるでしょう。
企業型確定拠出年金について詳しくは次の記事をチェックしてくださいね。
確定給付企業年金のメリットをチェック
確定給付企業年金のメリットとデメリットは次のとおりです。
- 会社負担で年金がもらえる
- 資産運用を自分でしなくてもよい
- 老後の生活設計が立てやすい
- 受給権保護の仕組みがある
順に詳しく説明していきましょう。
1.会社負担で年金がもらえる
確定給付企業年金の掛金は、原則として会社負担となりますので、公的年金とは別に年金をもらうことができるため老後資金を増やすことができます。
2.資産運用を自分でしなくてもよい
確定給付企業年金は、会社や基金が資産管理や運用を行うため、気にかけることなく給付を受け取ることができます。
3.老後の生活設計が立てやすい
確定給付企業年金は給付額が確定しているため、年金の受給見込み額を予想することができるため老後の安定的な収入源として生活設計を立てやすくなります。
4.受給権保護の仕組みがある
確定給付企業年金は確定給付企業年金法に基づいた制度です。厚生労働大臣の承認または認可を受ける必要があり、積立義務や受託者責任など受給権保護の仕組みがあるため、安心です。
確定給付企業年金のデメリットをチェック
一方で確定給付企業年金には次のようなデメリットがあります。
- 給付額を減額されるリスクがある
- 収入に影響がおよぶリスクがある
- 年金の受給権を把握しにくい
1.給付額を減額されるリスクがある
確定給付企業年金の給付額はあらかじめ確定していますが、運用の失敗や積立金の不足が生じた場合は、給付額が減額されることもあり得ますので、このようなリスクがあることを理解しておくことが必要です。
2.収入に影響がおよぶリスクがある
確定給付企業年金の積立金が大幅に不足した場合、会社が補てんする必要があるため、業績が圧迫されて給料や賞与が減額されることも考えられます。
3.年金の受給権を把握しにくい
確定給付企業年金は、受給権保護の仕組みがありますが、大幅な加入者数の変動などがあった場合、会社で給付設計が変更される可能性もあります。
確定給付企業年金のメリット・デメリットを正しく把握しよう
絶対に受取額が保証されているわけではないことは注意しておく必要がありますが、厳しいチェック機能がある制度のため、資産が半分になったり、給付水準が突然引き下げられるようなことは考えにくい制度です。
確定拠出年金制度を取り入れている会社も増えてきていますが、老後資金として考えるのであれば、給付があらかじめ確定している確定給付企業年金は心強い制度といえます。
まずは「自分の会社に企業年金があるのか?」「ある場合は、どんな制度なのか?」について確認しておくことが大切でしょう。
そして制度の内容をしっかりと把握した上で老後資金の準備を考えると、より具体的に老後の生活設計を立てやすくなると思われます。