高年齢求職者給付金とは?65歳以上が貰える失業保険の特徴と注意点
老後資金を考える際、年金や退職金を思い浮かべると思いますが、失業保険も老後資金の一つといえます。近年は定年後も働く方が多くなり、平成30年版高齢社会白書によると平成29年の労働力人口総数に占める65歳以上の割合は12.2%と年々上昇し続けています。
このような中、65歳以上の雇用保険の適用拡大により65歳以上の失業保険「高年齢求職者給付金」を受け取る人が増えてくると思われます。
そこで今回は「高年齢求職者給付金と通常の失業保険の違う点」や要件、金額、手続きなどを紹介。悩む方が多い「64歳と65歳のどちらで失業保険をもらう方がお得か」についても詳しく解説していきます。
65歳以上の失業保険「高年齢求職者給付金」とは?
失業保険とは会社を退職後に受け取ることができる雇用保険の失業等給付のこと。
失業者の生活支援のための給付として求職者給付とよばれるものであり、年齢や雇用形態によって大きく4種類に分けられます。
高年齢求職者給付金を簡単に説明すると「65歳以上の方が受け取ることのできる失業保険」と言えます。では65歳未満と65歳以上では制度はどのように異なるのでしょうか?
基本手当と高年齢求職者給付金との違い
失業保険には大きく分けて4種類ありますが、ここでは世間一般に失業保険と呼ばれている基本手当と高年齢求職者給付金の主な違いについてみてみましょう。
失業保険 (雇用保険の基本手当) |
高年齢求職者給付金 | |
---|---|---|
離職時の年齢(※1) | 満65歳未満 | 満65歳以上 |
支給を受けることができる日数(所定給付日数) | 90日~360日 | 30日または50日 |
所定給付日数の違い | 離職理由、離職時年齢、被保険者期間(※2)による | 被保険者期間による(1年未満か1年以上) |
支給回数 | 4週間ごと | 一括 |
受給要件 | 離職日前2年間に雇用保険被保険者期間が12ヶ月以上必要(ただし離職理由によっては1年間に6ヶ月以上でも可能) | 離職日前1年間に雇用保険被保険者期間が6ヶ月以上必要 |
※2:雇用保険の被保険者であった期間で、離職日から1ヶ月ごとに区切った期間に賃金支払い基礎日数が11日以上ある月を1ヶ月として計算する。
ここで注意したい点は、平成29年1月1日よりも前に勤務している方で既に65歳であった方についても、平成29年1月1日時点で「1週間の所定労働時間が20時間以上かつ、31日以上の勤務見込みがある方」については雇用保険に加入する義務があるという点です。
万一、雇用保険の加入要件に該当しているにも関わらず雇用保険に加入していない場合は会社に手続きをしてもらうように伝えることが大切です。
雇用保険法の改正により、65歳以上の方も雇用保険料を納めることになったのですが、2020年3月までは免除制度が継続されるのです。そのため、実際には2020年4月から給料より雇用保険料が控除されることになります。
高年齢求職者給付金の受給要件は3つ
高年齢求職者給付金をもらうには3つの要件を満たす必要があります。
- 離職によってハローワークで受給資格の確認を受けた。
- 就職の意思があっていつでも就職できる能力があるにも関わらず、職業に就くことができない失業の状態にある。
- 離職前1年間に雇用保険の被保険者期間が通算して6カ月以上ある。(賃金支払基礎日数が11日以上ある月を1カ月として計算)
高年齢求職者給付金を受給するためには住所地管轄のハローワークへ行って求職の申し込みを行い、高年齢受給資格の決定を受けることが必要です。
高年齢求職者給付金額はいくら?人によって異なる計算式
高年齢求職者給付金額は人によって異なります。正確な金額はハローワークで給付が決定されるまではわかりませんが、おおまかな金額はいくらになるのか考えてみましょう。
雇用保険被保険者期間によって異なる
高年齢求職者給付金の金額は、離職前に雇用保険に加入していた(被保険者であった)期間が1年以上か1年未満かで次のとおり異なります。
被保険者であった期間 | 高年齢求職者給付金の額 |
---|---|
1年以上 | 基本手当日額(※)50日分 |
1年未満 | 基本手当日額30日分 |
高年齢求職者給付金の受給期限は離職日から1年!
高年齢求職者給付金は離職日の翌日から1年以内に受給することが必要です。
例えば、50日分もらえる資格のある方が、後30日で離職日より1年が経つ場合は、50日分ではなく30日分しかもらうことができなくなりますので、手続きはお早目に行うことが大切です。
高年齢求職者給付金の手続きを解説!給付制限に注意
高年齢求職給付金は、一括で支給されます。申請から支給までの流れは次のとおりです。
- ハローワークで求職の申し込み
- 7日間の待機期間
- 3カ月の給付制限期間
- 認定日に失業状態である確認を受ける
- 失業認定日より約5日で指定口座に振り込まれる
3の給付制限期間については、離職理由によって異なります。自己都合退職や懲戒解雇の場合は給付制限期間がありますが、定年や契約期間満了、解雇などの場合は給付制限期間がありませんのですぐに給付金を受け取ることができます。
賃金日額=離職日直前の6ヶ月の賃金総額÷180日
※賃金総額に賞与や退職金は含みません。離職前6ヶ月の給与明細の総支給額を合計すると計算することができます。
65歳以上の基本手当日額(平成31年7月31日まで)は次の表のとおりとなります。
賃金日額 | 基本手当日額(給付率) |
---|---|
2,480円~4,970円未満 | 賃金日額×0.8 |
4,970円以上~12,210円以下 | 基本手当日額=0.8×賃金日額-0.3×{(賃金日額-4,970)÷7,240}×賃金日額 |
12,210円超~13,500円以下 | 賃金日額×0.5 |
13,500円超 | 6,750円 |
まず、賃金日額を計算します。
「(30万円×6ヶ月)÷180日=10,000円」。
次に、上の表に当てはめて基本手当日額を計算します。(1円未満切り捨て)
「0.8×10,000円-0.3×{(10,000円-4,970円)÷7,240円}×10,000円=5,915円。
したがって、雇用保険被保険者期間が1年未満の場合は、「5,915円×30日=177,450円」、1年以上の場合は「5,915円×50日=295,750円」を受け取ることができます。
つまり、失業認定日の翌日に働き始めるのであれば、高年齢求職者給付金はもらうことができるということです。
高年齢求職者給付金を受け取るために必要な書類について
高年齢求職者給付金を受けるためには、住所地を管轄するハローワークへ行って求職の申し込みをすることが必要です。ハローワークへは次の書類などを持参しましょう。
- 離職票1・2(退職した会社から受け取ります)
- 雇用保険被保険者証(退職した会社から受け取ります)
- 個人番号確認書類(個人番号通知カード・個人番号カード・個人番号の記載のある住民票のうち1種類)
- 身分証明書(運転免許証・個人番号カードのうち1種類)(保険者証、年金手帳の場合は2種類必要)
- 証明書用の写真2枚(縦3.0cm×横2.5cmの正面上半身のもの)
- 印鑑
- 本人名義の預貯金通帳など(給付金が振り込まれる口座)
失業保険をもらうのは64歳と65歳どっちがお得?
ただし、次のような注意点がありますのでよく考えて決めることが必要です。
失業保険をもらう年齢を64歳と65歳で悩んだら
(1)失業保険と65歳未満の老齢厚生年金はどちらか多い方しかもらうことができない
失業保険が多い場合はもらえるはずの老齢厚生年金が支給停止されるので注意が必要です。
(2)退職金が減額される可能性がある
離職日を前倒しすることによって退職金が減額される場合も考えられますので、自社の退職金規程をよく確認しておくことが必要です。
(3)3ヶ月の給付制限の可能性がある
満65歳が定年の場合、離職日を前倒しすることによって自己都合退職扱いとなり給付制限期間が生じることですぐに失業保険をもらうことができない可能性があります。
(4)失業保険をもらっている間はアルバイトをすると失業保険が減額される可能性がある
64歳でもらうことのできる失業保険は、失業認定日が4週間に1回ありますので、高年齢求職者給付金と異なり、アルバイトによって失業保険が減額又は停止される可能性があります。
65歳を超えても働きやすい社会に
65歳以上でも雇用保険に加入することができるようになったため、「高年齢求職者給付金」は何度でも受け取ることができるようになりました。これはかなりのメリットであるといえます。
65歳を待たずして64歳で失業保険を受け取る方法も検討の余地はあります。
しかしながら、近年の労働力不足、年金支給開始年齢の段階的引き上げ、年金額の減少、長寿の傾向などを考慮したいところ。
週20時間以上、雇用保険に加入できるような働き方を続けた上で、やむなく健康上などの理由によって離職を余儀なくされた際に高年齢求職者給付金を受け取るというようなライフスタイルを考えてみてもよいのかもしれません。