定年退職・退職金
死亡退職金とは?生前退職金との違いと遺族が注意すべき税金・相続

死亡退職金とは?生前退職金との違いと遺族が注意すべき税金・相続

日本企業では在職中の従業員が何らかの理由で死亡した場合、本来受け取れるはずだった退職金を遺族が受け取れる「死亡退職金」という制度を採用している企業があります。

いざというときに死亡退職金があれば、残された遺族の生活に充当する貴重な資産となるかもしれません。しかし、なかなか耳にする機会の少ない「死亡退職金」について詳しくご存知の方は少ないのではないでしょうか?

今回は死亡退職金の制度の特徴や、税金との関係などをわかりやすくまとめます。困った時に頼れる存在となる死亡退職金について理解を深めていきましょう。

知らない人も多い『死亡退職金』制度ってなに?もらうための条件とは

わしゃ、あと数年で定年退職じゃ。しかし最近、身近な人に相次いで不幸が続いておって…。なぁ先生、ワシがもし不慮の病気や事故で死んでしまったら、がんばって貯めた退職金はどうなるんじゃ?
そんな不安をお持ちの方へ、今回は『死亡退職金』についてご説明しますね。もしお勤めの企業で死亡退職金制度があれば、きっと役立つはずですよ。

死亡退職金とは、故人がもらえるはずだった退職金を遺族がもらえる制度

死亡退職金とは、在職中の従業員が不慮の病気や事故により死亡をした場合、本来故人が受け取るはずだった退職金を、遺族が受け取れる退職金制度です。

死亡退職金はすべての企業で受けられるものではなく、退職金給付制度を設けている企業のうち、死亡退職金の規定がある企業でのみ給付されることが一般的です。

そもそも「退職金」自体が国の法律で定められた制度ではなく、企業側に一任された独自の給与制度です。この死亡退職金においても、企業の就業規則に定めがなければ企業側に支払う義務はありません。

しかし、就業規則の規定によらず死亡退職金を支給するケースもゼロではありません。また、死亡退職金とは別に「死亡弔慰金」として一定の金額を支給する企業もあります。

勤め先に死亡退職金があるかどうかは、どうやって調べればいい?

日本における退職金制度は、企業によって導入の有無から制度の種類までさまざまに異なります。厚生労働省公表の「平成30年就労条件総合調査」によると、退職金制度を導入している企業は約80%となり、約20%の企業では退職金制度自体を設けていません。

また、退職金制度を導入している企業においても、退職金の支給方法に違いがあります。大きく分けると、退職時に一括して退職金を支給する「退職一時金」と、退職後に分割して支給する「企業年金」の2種類です。

この企業年金のうち、企業型確定拠出年金では「死亡一時金」、厚生年金基金や確定給付企業年金では「遺族給付金」など、それぞれの加入者が死亡した場合に遺族が給付金を受け取れる制度が定められています。

勤め先の企業に死亡退職金制度があるかどうかは、企業が採用している退職金制度とも関係があります。

まずは就業規則や社内規定、または人事部や総務部などの担当部署で退職金について確認してみましょう。なお、企業における退職金制度については、役所や年金機構では答えることができないので注意してくださいね。

死亡退職金はいくらもらえる?誰が受け取る?制度のしくみと特徴

う〜む、退職金といっても企業ごとにルールや条件が違うのじゃな。この死亡退職金ってのは、家族であれば誰でも受け取れるのかのう?ちなみに、いくらもらえるんじゃ?
死亡退職金の金額や対象者の条件は、企業の就業規則によって異なるんです。次は、死亡退職金の基本的な特徴をみてみましょう。

死亡退職金の金額は個人によって異なる

死亡退職金の支給金額は、個人の勤務年数や功績によって算出されることが多く、算出方法は企業によって異なります。そもそも退職金制度を設けていない企業もあるため、勤め先の退職金制度について事前に確認しておくと安心です。

ここでは死亡退職金の金額の参考までに、一般的な退職金の相場を確認してみましょう。厚生労働省公表の「平成30年就労条件総合調査」によると、定年退職者1人あたりの平均退職給付額は以下の通りです。

勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の場合(管理・事務・技術職)
勤続年数 大学卒 高校卒
20~24年 1,267万円 525万円
25~29年 1,395万円 745万円
30~34年 1,794万円 928万円
35年以上 2,173万円 1,954万円

職種や勤務年数、本人の功績によっても変わりますが、死亡退職金においても比較的多額なお金を受け取るケースがります。通常の退職金を満額というわけではなくても、残された遺族にとっては頼れる資産となるかもしれません。

死亡退職金の受け取り人は基本的に配偶者

死亡退職金の受け取り人は、基本的に会社の就業規則や退職金規定に定められています。もし受け取り人の規定がない場合は、民法に規定される法定相続人が受け取ることになります。

法定相続人における相続の優先順位は、配偶者(夫・妻)は必ず相続人となり、次いで故人の子→親→兄弟姉妹の順となります。

死亡退職金を法定相続人が受け取るケースは、あくまで社内規定に受け取り人の定めがない場合に限りますので、まずは会社の規定を確認するようにしましょう。

死亡退職金と税金の知っておきたい大事な関係【相続税・所得税】

もしかしたら、死亡退職金によってたくさんのお金が家族に残せるかもしれんのじゃな。しかし相続となると税金が心配なんじゃが・・・。
では死亡退職金と似ている「弔慰金」との違いや、税金との関係をみていきましょう!

弔慰金(ちょういきん)ってなに?

弔慰金とは、従業員や従業員の家族が亡くなったときに死者の生前の功労に報い、遺族への慰めとして贈るお金です。

従業員の死亡だけでなく、その家族が死亡した場合にも給付されることがあります。企業側に必ず支払う義務がある制度ではありませんが、福利厚生の一部として多くの企業で導入されています。

弔慰金は、弔慰金の算出方法は企業によって異なり、一定額の支給である場合や勤務年数に応じて変動する場合などがあります。ここからは弔慰金との違いを比較しながら、死亡退職金と税金の関係を解説していきます。

死亡退職金は相続税の課税対象になる基準

死亡退職金は、支給される金額が故人の死亡後3年以内に確定した場合、「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。しかし、死亡退職金には非課税枠が設けられており、必ずすべての財産が課税対象となるわけではありません。

死亡退職金が非課税限度額以下であれば課税はされません。非課税限度額は、以下の計算式で算出することができます。

死亡退職金の非課税限度額の算出方法
500万円×法定相続人の数=非課税限度額
※法定相続人数は、相続を放棄した人も含みます
※法定相続人に養子がいる場合、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人まで法定相続人に含めます

たとえば3人の法定相続人が合計1800万円の死亡退職金を受け取った場合、非課税限度額を超えた300万円が相続税の課税対象となります。

死亡退職金の課税対象額を計算してみよう

では、次に非課税限度額を超えた部分の課税対象額の計算方法をご説明します。

死亡退職金の課税対象額計算方法
(相続人をAさんと仮定した場合)
Aさんが受け取った退職金の金額—(非課税限度額×Aさんが受け取った退職金/すべての人が受け取った退職金の合計額)=Aさんに課税される死亡退職金の金額

このように、死亡退職金は相続財産とみなされ課税対象になり、上記の式で金額を算出することができます。

一方、弔慰金は業務上の死亡の場合は普通給与の約3年分、業務外の死亡の場合は普通給与の約6ヶ月分に相当する金額までが非課税対象限度額となり、相続税の対象となりません。

同じ死亡による給付金でも、死亡退職金と弔慰金では税制上の扱いが異なるので注意が必要です。

じゃあさ、死亡退職金は所得税の対象になるの?
死亡退職金は基本的に「みなし相続財産」となるため、所得税の対象とはなりません。しかし、故人の死亡後3年を経過して死亡退職金の支給額が確定した場合は所得税の対象となります。

死亡退職金は遺産分割の対象となるかは受取人次第

死亡退職金が遺産分割の対象となるかどうかは、会社の社内規定に死亡退職金の受け取り人が明記されているかどうかによって異なります。

受け取り人が規定されている場合は、固有の財産とみなされ遺産分割の対象とならず、他の遺族が退職金を受け取ることはできません。しかし、受け取り人が明記していない場合は遺産分割の対象となり、民法における法定相続分に従って遺産相続をします。

まずは会社の就業規則や退職金規定を確認し、受け取り人の明記があるかどうかを確認しましょう。

死亡退職金といっても、会社の規定によって税金や遺産分割のルールが変わるんじゃな!これを知っとくだけでも、もしものときも家族を残すことへの不安を減らせそうじゃ。
税金や相続のルールは、少し複雑かもしれませんが、会社の制度はしっかりと活用し、もしもの時の力に変えていきたいですね!

万が一にそなえ、正しい知識で死亡退職金制度を上手に活用しよう

死亡退職金という制度はなかなか耳にする機会が少ないからこそ、いざ必要となったときにちんぷんかんぷんで困ってしまうかもしれません。

「相続」や「税金」と聞くと少し難しいように感じてしまうかもしれませんが、正しい知識を入れて大切な資産をムダにしないようにしたいですね。

死亡退職金制度は企業によって大きく異なるため、ご自身の勤務先に合わせて情報収集することが大切です。

死亡退職金の「あり・なし」をはじめ、相続や税金のルールを理解しながら、会社の制度を最大限活用しましょう。