定年退職・退職金
退職金がないのは当たり前?規定の確認方法ともらえない場合の相談先

退職金がないのは当たり前?規定の確認方法ともらえない場合の相談先

老後資金を考える際「退職金」を思い浮かべる人は多いと思います。

「長年務めていたらもらえる」退職金にはそんなイメージを持っている人が多いと思いますが、退職金の付与は法律で定められているわけではありませんので、必ずしももらえるとは限りません。

ただし「退職金がない」と思っていても、実はもらえるケースもあります。

この記事では退職金を法律的な観点から解説し、民間企業や公務員における退職金制度の実態からトラブルへの対処方法についてわかりやすく説明していきます。

退職前に慌てるなんてことにならないよう、退職金についてしっかりと考えていきましょう。

法律で定められている退職金のルール

ここでは、法律的な観点から退職金の基礎知識について説明します。この記事を読んで、退職金についてしっかり理解しておきましょう!

退職金の内容は会社のルールによって異なる

退職金は定年の時に会社からもらえるものと思っている方が多いのではないでしょうか?

そのように思われている方は半分正解で半分不正解です。退職金とは会社を退職時(理由を問わない)にもらうことができる手当のことです。

退職金は勤務する会社によって異なり、社員の給与や勤続年数、退職理由などによって金額が異なります。

そして退職金の支払い方法は一度に全額支払う「退職一時金制度」と、一定期間または終身で支払う「退職年金制度」の2通りの方法があり、これらの制度の一つまたは両方を退職金として支払うかについても会社のルールによって異なります。

退職金の支給は民間企業は就業規則に、公務員は法律に定められている

退職金額は会社によって違うことは分かったんですが、退職金って必ずもらうことができますか?
民間企業の場合は会社の就業規則等の規定で定められています。就業規則は各企業によって異なるため、必ずもらえるとは限りません。
それじゃあ公務員の場合はどうなるのかしら?
国家公務員の場合は「国家公務員退職手当法」という法律、地方公務員の場合は「各地方公共団体の条例」によって定められていますよ。

「民間企業が退職者に対して退職金を支払う義務」は法律にありません。そのため退職金がもらえない会社も当然あります。

民間企業の場合は就業規則等を確認しておくことが大切といえます。

退職金を定める会社は労働基準法上、就業規則に定める義務がある

退職金の支払い義務は法律では定められていませんでしたが、労働者保護のための法律である労働基準法において退職金について触れられていないのでしょうか?

労働基準法上でも退職金は賃金(給料)と明確に異なるものとしており、必ず支払うべきものとは定めていません。

しかしながら会社が退職金について定める場合には、就業規則に次のような関連事項を定める必要があります。

  • 支払い対象者の範囲
  • 退職金の決定
  • 計算
  • 支払い方法
  • 支払い時期

したがって就業規則に退職金の記載があれば「会社は定めたとおりの退職金を社員に支払う義務」が生じるということになります。

退職金支給は就業規則に規定があることが条件

退職金の支払いの有無は会社に委ねられており、それぞれの会社の就業規則によって退職金の支払いの有無や退職金の支払い基準が決められています。

退職金が自分の会社の就業規則に定められているか確認してみよう!

退職金の有無について確認するためには、まずは自分の会社の就業規則を確認することが大切です。

一般的には入社時に就業規則が配布されたり、説明を受けた上で社内で社員がいつでも見ることのできる状態にしてあることが多いですが、「説明を受けたけど忘れてしまった」「そもそも会社のどこにあるのか分からない」などと思われている方も少なくないと思います。

そのような場合は、総務部や人事部などに就業規則を確認したい旨を問い合わせてみましょう。

就業規則「退職金」の項目がなければ「給与規定」をチェック

就業規則を確認する際、「退職金」について触れられている項目を見つけましょう。万一ない場合でも多くの場合は別規程として定められているケースが多いため、給与規程や退職金規程など諸規定の有無についても確認しておきましょう。

例えば、給与規程に退職金の項目があっても「退職金については別に定める」と記載があれば、退職金規程が存在するということになります。

就業規則に退職金規定がなくても諦める必要はない!

もし就業規則に退職金を支払う記載がなくても、もらえるケースってあるんですか?
ええ、あります。詳しく説明しましょう。

就業規則に退職金規定がなくても、退職金がもらえるケースには次のようなときが考えられます。

  • 給与明細で「退職金掛金」や「企業年金掛金」等が控除されている場合
  • 求人票に「退職金あり」と明記されていた場合
  • 雇用契約書等に「退職金あり」と明記されていた場合
  • 今まで退職した社員が退職金をもらっている事実があった場合

ただし念の為、会社に退職金について確認はとっておいたほうが良いでしょう。

退職金のない会社のメリットとデメリット

「退職金はないよりあった方がいいに決まっている。退職金のない会社にメリットなんてあるの?」と思われる方も多いのではないでしょうか?

それでは一度、退職金のない会社のメリットとデメリットについて考えてみましょう。

退職金制度のない会社は全体の約4分の1

厚生労働省の「平成25年就労条件総合調査結果の概況」によると、退職金(一時金・年金)制度がある会社の割合は75.5%です。

退職金制度がない会社をみると、1,000人以上の規模の会社は6.4%に過ぎませんが、規模が小さくなるにつれて割合が高くなり30人~99人の会社では28.0%となっています。

この調査は30人以上の会社を対象としていますので、30人未満の会社では退職金制度がない割合が更に高いのではないかと考えられます。

この調査より5年前(平成20年)の調査では、退職金制度のない会社の割合は16.1%であったことから退職金制度がない会社が増えてきている傾向にあると考えられます。

会社に退職金制度があるのは当たり前、というわけではないんですね。

デメリット.退職金制度がないと自分で老後資金を貯めなければならない

退職金制度がない会社のデメリットは「自分で老後資金の準備をしなければならないこと」といえます。

退職金のある会社は、老後資金として確保することができるため、自分で老後資金の準備を考える必要がなく安心です。また十分な退職金額が見込めない会社であっても、自分で準備する金額は少なくなるため、日頃から準備しておく老後資金も少なくて済みます。

次に退職金制度がない場合のメリットをみてみましょう。

メリット1.毎月もらう給料や賞与が多い可能性がある

退職金制度は会社ごとに異なるため一概にはいえませんが、退職金を支払う代わりに毎月の給料や賞与を低く抑えたり、退職金がない代わりに毎月の給料や賞与を高く支払うことが考えられます。

退職金がない会社であっても、その分、給料や賞与などが高いのであれば、毎月の生活に余裕をもつことができますし、毎月老後資金の運用に利用できる金額も広がります。

老後資金の貯蓄方法はさまざま。「老後資金の貯め方とは?お金を増やすための9つの運用方法を紹介」の記事では、さまざまな貯め方をご紹介しているので、ぜひあなたに合ったものを探してみてくださいね。

メリット2.退職金は絶対にもらえるとは限らない

退職金制度は、就業規則などで定められていれば、会社は原則支払うべきものです。しかしながら会社の業績が悪化したとすればどうでしょうか?

将来の退職金の積み立ては一旦ストップするかもしれませんし、減額する可能性も考えられます。最悪の場合、倒産すれば1円ももらえない可能性も十分に考えられるのです。

退職金がない会社であれば、もらうことができないことが分かっているため、このようなリスクはありませんし、前述したように給料や賞与が高ければ損をすることはないといえます。

メリット3.転職を考えているなら有利!

退職金制度は会社が社員に長く働いてもらうための対策の一つとして設けられていることが少なくないため、勤続年数が長い社員ほど多くもらえるシステムとなっています。

近年、転職を経験する方が少なくない中、あなたは一つの会社に定年まで働き続けるでしょうか?

定年まで働いてこそ多くの退職金をもらうことができますが、中途退職した場合、多くの場合は少ないことが多くみられます。それならば、退職金の積み立て部分を毎月の給料や賞与によってもらえる方がメリットと考えられます。

退職金におけるトラブル事例と対応策

退職金はあなたにとって老後のための大切な資金のひとつです。また会社にとっても退職金は大きな金額です。そのため退職金におけるトラブルも少なくありません。

ここでは、退職金におけるトラブル事例と対応策について取り上げます。

(1)会社が倒産した、または倒産しそうで退職金がもらえなかった

就業規則に退職金制度がしっかり明記されていても倒産してしまったら退職金の元手も枯渇しているのが通常です。また、倒産予備軍の場合も退職金が支払われる可能性も低いと考えておくべきでしょう。

対応策としては、今後、経営上芳しくないと判断した場合は早めに転職を考えることも必要です。

しかしながら万一倒産してしまった場合は「未払賃金立替払制度」を利用することもできます。

立替払い金額は退職時の年齢に応じて88万円~296万円の上限範囲で8割を支給してもらえる制度です。

(2)就業規則に退職金を支給する記述があるのに退職金がもらえない①

退職金規程に、入社3年未満など早期退職の方には退職金を支給しないルールを定めている会社が多くみられます。もちろん、会社が独自に決めるルールであるため1年の会社もあれば5年の会社もありますので注意が必要です。

対応策としては、退職金規程の支給要件について確認しておくことです。「あと1月後に退職すればもらえたのに・・・」というようなことにならないように確認しておきましょう。

(3)就業規則に退職金を支給する記述があるのに退職金がもらえない②

退職金規程に、問題を起こして懲戒解雇になった方には退職金の全部または一部を支給しないルールを定めている会社が多くみられます。但し、懲戒解雇自体が無効である場合は当然にして退職金を全額もらうことができます。

懲戒解雇と判断されるには、一般的には相当の理由がある場合に限られると思いますが、お世話になった会社には円満退社して気持ちよく退職金を受け取ることがベストといえます。

(4)退職金が想定よりも少なかった

会社が退職金制度を設ける目的の一つに社員に長期にわたって自社で働いてもらうことが考えられます。そのため、勤続年数が少ない場合や自己都合による退職は支給額を少なく設定しているケースが多くみられます。

東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)」によると、大卒者で自己都合退職者の場合、勤続年数30年:7,490千円に対して10年:1,148千円、5年:440千円となっており、勤続年数が短くなればなるほど支給率が格段に少なくなっていることがわかります。

また厚生労働省の「平成25年就労条件総合調査結果の概況」によると、退職者1人平均の退職給付額を退職事由別でみた場合、「早期優遇による退職」が最も高く、「自己都合退職」が最も低い結果となっています。

会社の規定にもよりますが、一般的には勤続年数が少なければ相当な割合で退職金は少なくなり、退職事由が自己都合の場合は、例え勤続年数が長くても思っているよりも低くなると考えておくことが必要です。

退職金の請求の時効は5年間

「会社に退職金規程があるのに、退職金を支払ってくれない」なんてことがあった場合は、当然会社に請求する必要があります。

ここで注意しなければならないことは退職金の請求には時効があるということです。

民間企業の場合は、労働基準法第115条によって「退職金を請求できる日の翌日から起算して5年間」と定められており、公務員についても会計法30条において5年間と定められています。

5年以内に忘れずに退職金を請求しましょう。

もしもの退職金トラブルの相談は労働基準監督署へ

退職金トラブルがあった場合、どこに相談すればいいですか?やっぱり弁護士の先生でしょうか?知り合いに弁護士はいないんですけど・・・。
弁護士の先生にももちろん相談しても良いと思います。ただ費用がかかってしまうので、まずは次のような機関で解決できるか相談してみるとよいと思いますよ。

1.最寄りの労働基準監督署

主に労働基準法などの労働に関する法律に基づいて管内の企業を監督する厚生労働省の出先機関です。法律違反がある場合は、行政指導などを行いますので、「規定があるのに退職金を支払ってくれない」などの相談をする場合にはよいと思われます。

また未払賃金の立替払いについても労働基準監督署で相談することができます。

2.日本司法支援センター(法テラス)

労働基準監督署は労働に関する法律に基づいた判断しかできないため、その他の法律が関係する相談事には、弁護士などの専門家に相談することが必要になるかもしれません。

このような場合に活用できる場所が、無料で法律的な相談ができる「法テラス」です。国が設立した機関で、解決に役立つ情報提供や法律事務所の紹介なども行っているため、労働基準監督署で解決できない場合は活用されてもよいと思われます。

しかしながら、まずは会社の担当者にしっかりと確認してから「どうしても納得できない」「話を聞いてくれない」などの場合に上記のような機関に相談する方がよいでしょう。

トラブルが起きる前に!自社の退職金制度を確認しよう

民間企業において退職金は法律で義務つけられているわけではないので、退職金がないこともありますし、もらえる金額もバラバラです。まずは、自社の就業規則の退職金規定を十分に確認しておくことが大切です。

退職金制度があったとしても、少なくなったりもらえなかったりするケースがあり得ることを理解しておくことが必要です。一方、退職金制度がなかった場合でも、本当に自社では退職金がもらえないのかを確認しておくことが必要です。

いずれにしても、自分がもらえる退職金額を把握しつつ、日頃から老後の生活資金を少しずつでも確保していくことは、退職金制度自体が減少傾向にあり、一つの会社に定年まで働き続ける割合も少なくなっている今だからこそ最も重要であるといえます。