定年うつ(老人性うつ)とは?症状・原因を知って早めの対策を!
「なんだかやる気が出ない」「体が重い・・・」「動きたくない」など、定年退職を迎える前後におとずれる突然の無気力。
それは「定年うつ」のはじまりかもしれません。
日々通っていた仕事や職場を離れると、自分の居場所がなくなったと感じてしまい、老後を楽しむ気持ちよりも、心理的な不安に悩まされ「うつ病」を発症させてしまうことがあります。
だれにでも起こりうる「定年うつ」の実態とは、いったいどのようなものなのでしょうか。本人や家族が知っておきたい「定年うつ」を乗り越えるポイントを、わかりやすく解説します。
「定年うつ」ってなに?
定年うつとは、正式な病名ではなく「定年前うつ」「定年後うつ」「老人性うつ」などと呼ばれ、高齢者がかかる『うつ症状』を指します。
- やる気が起きない
- 1日中でボーッとしている
- 体がだるい
- 食欲がない
- 夜眠れない
- 人に会うのが億劫(おっくう)
- 外に出たくない
また「落ちつきがなくソワソワする」「不安や焦りを感じる」などの症状が現れる場合もあります。これらの症状は、内科や外科を受診しても原因がわからず、身体的・精神的な不調に悩まされるケースも。
定年うつの症状は「燃え尽き症候群」と呼ばれることもあり、長きにわたる多忙な勤労生活に献身的に取り組んだ結果の「反動」として現れるともいわれています。
定年退職の前後でおとずれやすい定年うつは、早期に適切な治療をすることで治すことができる病気です。
少しでも当てはまる部分があれば、悪化させる前に早めに専門医療機関へ相談に行きましょう。
「定年うつ」になりやすい人の特徴を知ろう
定年うつを理解するために、定年うつになりやすい人の特徴をみてみましょう。「最近ちょっと様子が変だな…」と思うご本人の方や、ご家族に思い当たる方がいらっしゃれば、当てはまる項目をチェックしてみてください。
- 責任感が強い
- 生真面目である
- 定年退職をした
- 仕事以外にやることがない
- 身近な配偶者やペットを亡くした
- 一人暮らしをしている
- 気軽に会える友人が少ない
- 人とコミュニケーションをとる機会が少ない
- 趣味や楽しめるものが少ない
- 病気やケガを患っている
- 金銭的な不安を抱えている
仕事熱心で真面目な人ほど、気づかぬあいだにストレスを抱え、定年退職を機に「うつ状態」を発症しやすい傾向があります。
また環境要因も大きく影響します。例えば子どもの独立や配偶者を亡くして一人暮らしをしている方や、家族や友人など身近に人と接する機会の少ない人は、うつ症状を発症しやすいと考えられているのです。
ご自身やご家族のようすに異変を感じたら、「ただ一時的に元気がないだけ」と決めつける前に、心理的・環境的要因から「定年うつ」の症状を疑ってみることが賢明です。日頃の生活を注意深く観察し、該当する点が多ければ医療機関を受診するようにしましょう。
「定年うつ」の原因を知ろう
定年うつの特徴に当てはまっていたとしても、いったい何が原因で「定年うつ」を発症してしまうのでしょうか。原因を知ることで、病気への理解が深まり適切な処置ができるようになるかもしれません。
- 仕事や肩書きを失い、自分の存在価値がわからなくなる
- 家族が仕事をしていない自分をどんな目で見るか不安
- 仕事以外になにをやったらいいかわからない
- 仕事を辞めたことにより生活リズムの土台が崩れた
- 収入が年金のみになり、金銭的に不安がある
- 家族やコミュニティを失い、強い孤独感を感じている
- 自分の居場所がない
定年うつの背景や要因は人によってさまざまです。
定年(60歳~65歳あたり)を境に「新しいライフステージ」への転換が訪れる多くの人々のだれにでも「定年うつ」を発症する可能性があります。
「まさか自分がなるわけがない」「いつも元気な家族だから大丈夫だろう」と他人事にせず、身近な人が発症する危険性を忘れてはなりません。
「定年うつ」になるのを防ぐ予防法を紹介
定年うつの予防として有効なのは、「仕事」以外の活動を充実させることです。定年うつを発症させてしまう原因は、生活の中心であった「仕事」を離れることで感じる喪失感や虚無感に大きく起因をしています。
定年退職をする前から、新しいライフステージへの準備をはじめたり、定年退職後も日々の暮らしから仕事以外に取り組める活動を増やしていきましょう。
- 料理や洗濯、掃除など家事を自分でおこなう
- 趣味や習い事をはじめる
- 友人や家族と会う時間を増やし、一人でいる時間を減らす
- ボランティアや地域サークルなど社会とのつながりをつくる
- 散歩やジョギングなどスポーツを取り入れる
定年うつを予防するキーワードは、「心の空白」をつくらないように日常の活動を増やすことと、「人や社会とのつながり」を絶やさないことです。
特に男性に多い、仕事を中心にしてきたタイプの方は、日々の食事づくりや洗濯、掃除といった家事にチャレンジすることも、新しい刺激となり心の空白を埋めることに役立ちます。
また人や社会とのつながりを絶やさないためには、本人の意思だけでなく環境づくりも大切です。家族や周囲がサポートをすることで、定年うつを予防できる環境を整えていきましょう。
「定年うつ」かもと思ったら、はやめに医療機関を受診しよう
少しでも定年うつかもしれないと感じたら、専門の医療機関を受診し適切な処置を受けましょう。定年うつの治療法は大きく分けて3つあります。
生活環境の調整
定年うつを発症させている環境について、生活習慣や食事などを適切に改善していきます。うつ病の治療には、基本的に十分な休養が必要とされます。
しかし高齢者の場合、筋力や体力の低下を加速させ、寝たきりになってしまう可能性があるので注意が必要です。定年うつの場合は、簡単なストレッチや散歩など、できる範囲での運動を取り入れることが最善です。
また、うつ症状には脳内の神経伝達物質である「セロトニン」が深く関わっていると言われています。
このように食事や生活習慣から、環境の改善がうつ症状の緩和には欠かせません。
薬物療法
定年うつでは、抗うつ剤による薬物療法をおこなうことも。しかし高齢者への抗うつ剤投与には注意を払う必要があります。抗うつ剤、抗不安剤には、うつの気持ちを和らげる効果だけではなく、高齢者に好ましくない副作用がともなう場合があるからです。
例えば、副作用のひとつに「筋弛緩作用」を持つ抗うつ剤・抗不安剤があります。筋力や体力の少ない高齢者にとって「筋弛緩作用」はふらつきや転倒の原因となることも。
投薬をした高齢者が、就寝中にトイレに起きようとして、ケガや骨折などを引き起こすケースもゼロではありません。
必ず医師と相談し、本人の健康状態に応じた抗うつ剤の投薬や量の調整をしましょう。
精神療法
うつ症状を患う人には、小さな言葉でもプレッシャーになることがあり、繊細なコミュニケーションが必要です。そこで専門の医師やカウンセラーが患者本人と対話をしながら、「認知行動療法」や「対人関係療法」といった精神療法をすることで、心の面からうつ症状の改善を図ります。
「薬物療法」と「精神療法」は、相互補完的な関係にあります。主治医の指示に従い、患者本人に合わせた治療で、少しずつうつ症状の回復を進めていくのです。
「定年うつ」は、早期に適切な治療が必要な病気です。心や身体の不調を感じたら、早めに専門医療機関へ相談にいきましょう。
定年うつの不安を感じたら、はやめに相談を
小さな異変を感じらたら、ご自身を過信せず専門医の診断を受けるようにしましょう。
また家族や周囲の人も、高齢者の日頃の生活に気を配り、小さな変化にも気づける環境づくりを心がけたいですね。