土地や空き家の無償譲渡の方法と税金について徹底解説
親から相続した土地や、使わなくなって処分に困っている空き家などの問題を抱えている人は、今や珍しくありません。
利用していない不動産でも、所有しているだけで維持費や固定資産税がかかります。
今回は土地や空き家を「無償でもいいので処分したい」という方や「無償譲渡の方法が知りたい」という方に、参考となる情報をお伝えします。
無償譲渡とは?無料で誰かに不動産を譲ることは可能か?
処分したい土地や空き家を、無償で譲渡することは可能です。
譲渡する相手は配偶者や子供、親戚などの近親者だけでなく、全く知らない他人にも無償で譲渡できます。
ただし無償譲渡とはいえ、税務上は贈与にあたるために譲渡対象となる不動産の条件等によっては譲渡を受ける側の人に贈与税が課される可能性があります。
つまり、譲渡する側もされる側も「単純にタダで物件を譲ることは難しい」ということになります。
反対に譲渡を受ける側さえ税金の問題を納得できれば、無償譲渡自体には法的な問題はありません。
家や土地を無償譲渡する2つのステップ!不安なら専門家へ相談を
個人間で不動産を無償譲渡する際などはとくに、不動産会社といった専門家を挟まずに進めることもあるでしょう。
不動産の譲渡はできれば、各手続きで専門家へ相談するのがおすすめです。
家や土地の無償譲渡は、次のような流れで進みます。
詳しくみていきましょう。
不動産を無償譲渡する手順1:譲渡すべき相手を探す
無償譲渡する相手を探すには主に「隣人などの知り合い」「自治体」「空き家バンク」の3つが考えられます。
1.隣人などの知り合い
隣人や近くで事業を営む会社などであれば、使えなさそうな土地でも欲しいと言ってくれる場合があります。
「子どもが住む土地を近くに用意したい」「自分の家を広くしたい」といった個人や、「会社の資材置き場を探している」などといった企業を自分で探してみてもよいでしょう。
ただし個人で譲渡先を見つけた場合、手続きなども自分で進める必要があります。進め方が不安な場合は、専門家などへ相談しましょう。
2.地方自治体
地方自治体によっては、IターンやUターンによって他県からの移住者を積極的に受け入れて、町の活力につなげようと努力しているところもたくさんあります。
そのような自治体では移住者の住居として安く購入できたり、借り受けられる住宅を常時探している場合があるのです。
そのためホームページや後述する空き家バンクを通じて、移住希望者向けに住宅の売却物件や賃貸物件の情報を掲載している自治体がたくさんあります。
自分が無償譲渡したい地域の自治体に相談するとそのような売却情報として掲載してくれたり、自治体のほうで賃貸用に譲渡を受け入れてくれる場合も考えられます。
まずは地元の自治体に、無償譲渡を受け入れてくれるかの相談をしてみるといいでしょう。
3.空き家バンク
空き家が急速に増えてきていることもあり、各地方自治体ではネット上に「空き家バンク」という自前のサイトを開設するケースが増加しています。
空き家バンクは大手住宅情報のポータルサイトに直結するものも多いですが、地域内にある空き家の売却物件の情報を掲載してくれます。空き家を放置することは放火や災害時の安全面などから地域内で悪影響を及ぼすリスクが高く、自治体でも空き家を無くすことに懸命です。
空き家バンクに登録すると、自治体の職員や協定事業者(宅地建物取引事業者である不動産会社)の現地調査を経て、譲渡したい土地や家の情報を公開してくれます。空き家バンクの登録を希望する場合、まずは登録申込みをおこないましょう。
不動産を無償譲渡する手順2:所有権移転登記をする
相手が見つかり譲渡に相手が同意すれば、譲渡契約を締結し、所有権の移転登記をして譲渡完了です。
譲渡の時期や譲渡に関して発生する登記費用、その他税金関連の話など双方が納得するまで十分に話し合いをおこないます。
契約の締結にあたっては、不動産会社に相談した場合には不動産会社が立会いの上で進めてくれます。ただし調査料がかかる場合が多いので、こちらの費用負担も譲渡相手と相談をしておきましょう。
また空き家バンクなどを通じて譲渡相手が見つかった場合も、自治体の協定事業者(不動産会社)が間に入って手続きをおこなってくれます。
所有権移転登記の申請は自分でもできますが、不安な場合は登記の専門家である司法書士に依頼しましょう。
使わない土地や空き家は、無償でも手放すほうがよい2つの理由
使わない土地や空き家は所有し続けるより、無償でも手放すのがおすすめです。
その理由は、次のとおり。
詳しくみていきましょう。
理由1:建物の管理義務や維持費の負担がなくなる
建物は住んでいなくても経年変化で古くなり、定期的に清掃や適切なメンテナンスをしていないといざという時に使い物にならない場合があります。毎日のように太陽からの紫外線を浴びる屋根や壁は傷んでいきますし、床下も湿気などからカビや腐食することも。
特に木造家屋の場合はシロアリの被害に遭い、放置していると最悪の場合には家が傾いてしまうケースもあります。
庭木の手入れなどについても、近隣の迷惑にならないように怠らないようにしなければなりません。
このような家のメンテナンスには自分だけでは対応できない場合もあり、業者に依頼すればそれなりの額の費用が発生します。
しかし無償でも譲渡して所有権が移転してしまえば、管理義務や維持費の負担から解放されます。
理由2:固定資産税の負担がなくなる
譲渡すると、毎年1月1日時点の所有者に課税される固定資産税の負担が無くなります。
土地や建物は法務局で所有権移転登記をおこなえば、固定資産税を課税する地方自治体は新たな所有者へ課税するようになります。
固定資産税の支払いは不動産を所有する限り続くため、10年・20年と積み重なっていきます。使わない不動産であれば手放すことで、これらの出費も不要となるのです。
無償譲渡でも税金発生!とくに個人から法人の「みなし譲渡」には注意
無償譲渡をするとメリットもありますが、注意すべき点もあります。
それは、譲渡が無償でも税金の支払いが発生するということ。
ここでは、次の場合に分けて説明していきます。
自分はどの場合に当てはまるのか、しっかり確認しましょう。
個人から個人へ無償譲渡する場合の税金
個人から個人へ不動産を無償譲渡した場合には、次のような税金が発生する可能性があります。
- 贈与税
- 相続税
詳しくみていきましょう。
贈与税
個人から個人へ無償譲渡する場合、譲渡を受ける側(受贈者側)に贈与税が発生する場合があります。
贈与税には、譲渡する相手や年齢によって「一般贈与財産用の税率(一般税率)」と「特例贈与財産用の税率(特例税率)」の2種類の税率があります。
一般税率が適用されるのは、贈与する年の1月1日において譲渡する相手が20歳未満の子や孫や空き家バンクなどを通じて他人に譲渡された場合です。
特例税率は、贈与する年の1月1日時点で20歳以上の子や孫に譲渡する場合に適用される税率です。税率については一般税率よりも特例税率のほうが低い税率が適用されます。
いずれの場合も、課税される金額は次のように計算できます。
無償譲渡する不動産の場合、課税価格はその不動産の「評価額」を用います。
不動産の無償譲渡における贈与税の計算に関しては、次の記事「個人へのいらない土地の譲渡は「贈与税」に注意!計算方法を解説でも詳しく紹介しています。詳細を知りたい方は、ぜひ確認してみてください。
相続税
不動産を所有する人が亡くなって、配偶者や子供が相続します。
この場合、基礎控除や配偶者控除などを上回る課税価格に対しては相続税が譲渡を受ける側(相続人)に対して課されます。
なお譲渡する所有者が亡くなる直前まで同居等により居住していた家を相続する場合には「小規模宅地等の特例」により、相続する土地への課税評価額が大幅に減額される制度もあります。
個人から法人へ無償譲渡する場合の税金
個人から法人へ無償譲渡する場合、たとえ無償であっても時価で譲渡したものとみなされ、譲渡する側に譲渡所得があったものとして譲渡所得税が課せられる場合があります。
同時に譲渡を受ける法人に対しても受贈益があったとみなされ、課税されることがあります。
この一連の譲渡は「みなし譲渡」と呼ばれ、十分に注意が必要です。
無償譲渡で税金がかからないようにするには?方法はあるが注意が必要
無償譲渡した場合、条件にもよりますが主に譲渡を受けた側に贈与税などの税金が発生してきます。
税金がかからないようにする方法はいくつかありますが、いずれも配偶者や親族への譲渡を前提としたものが多く、全く関係の無い他人への無償譲渡には向いていない方法ともいえそうです。
場合によっては節税とならずに税務署から否認されてしまう場合もありますので、注意が必要です。
ここでは、次のような「無償譲渡で税金がかからないようにする方法」をお伝えします。
詳しくみていきましょう。
贈与税の配偶者特例を利用する方法
居住用不動産または居住用不動産の取得資金を配偶者に贈与した場合、基礎控除の110万円とは別に最高2,000万円まで配偶者は配偶者特例による税額控除を受けることができます。
従って、配偶者は合計で2,110万円までの贈与税の控除が受けられることになります。この特例措置は、一生に一度だけ利用できる制度です。
なお贈与税の配偶者控除を受けるには、次のような条件があります。
- 夫婦の婚姻期間が20年以上ある
- 贈与年の翌年3月15日までに、贈与対象となる居住用不動産あるいは贈与された資金で購入した居住用不動産に実際に居住している
- 後も居住を続けることが予定されている
ただしこの特例は、不動産が居住用である場合に使えるもの。「使っていない空き地」「事業用の建物」などは対象外のため、注意してください。
年110万円の基礎控除によって共有持分とする
不動産を共有持分とすることで、年間110万円の基礎控除を利用してその額の範囲で贈与することで無税とする方法があります。
しかし贈与を受ける人が親族以外の他人と共有持分とすることは、一般的にはあまり望ましくない方法といえます。
また基礎控除を毎年繰り返し利用して110万円までの贈与を繰り返すと、税務署から定期贈与とみなされて後から課税される可能性があります。
まとまった金額に相当する財産を、何年かに分けて贈与する目的があったとみなされること。
定期贈与とされると、毎年繰り返し贈与されてきた額の合計から基礎控除の110万円(1回分のみ)が引かれた残りの全額に対して贈与税が課されることに。
定期贈与とみなされないようにするには、毎回の贈与額や贈与時期を変えたり、毎回契約書の受け渡しを贈与者と受贈者の間で取り交わすなどの方法があります。
ただしそのような方法をとっても税務署から否認され、定期贈与とみなされるリスクがゼロになるわけではありません。
いずれにしてもこのような方法による節税は、贈与税に詳しい税理士の判断を仰いだほうがいいでしょう。
空き家は放置せず無償譲渡などの対応策を考えよう!
少子高齢化に伴う人口減少などによって使わない土地や空き家が日本全国に急激に増えてきています。処分が難しいからと放置していると空き家対策法などの施行もあり、払う税金も増えてしまうリスクがあるので注意しましょう。
今回お伝えした方法などにより、早目の対策と処分を検討することが大切になってきます。
また、無償譲渡する際には譲渡する側もされる側も税金が課税される可能性があります。もしわからない点があれば税理士などの専門家に相談してください。
当サイトでは、「いらない土地の処分方法」や「家が売れない時の対処法」なども紹介しています。無償譲渡は最終手段と考え、まずは複数の不動産会社で査定してみるなど、売却ができないか検討してみましょう。
無償譲渡で問題となるのは贈与税です。予想外の課税をされると、譲渡した方も譲受する方も面食らうことがあります。税務署や税理士に相談することが大切です。
建物が土地上に建っている場合は、無償譲渡であっても「瑕疵担保責任」を問われることがあります。
不具合や瑕疵がある場合は譲受者に告知しなければなりません。
中古住宅・中古アパートの媒介業務・調査業務に従事し、現在は札幌市内の宅建業者にて専任の取引士を務めている。
2006年より、住宅に関する無料の相談サイトを開設し、住宅リフォームや中古住宅購入の相談に応じている。