障害年金の審査のポイント・対処法【状況確認による支給停止に注意】
障害年金とは、病気・ケガなどにより日常生活や労働が難しくなった際にもらえる年金。
国民年金の加入者は「障害基礎年金」、厚生年金の加入者は「障害厚生年金」を受給することが可能です。
たとえば医師・歯科医師に症状の重さが伝わらず、診断書の記載内容が実際より軽症だったために、審査に落ちたり支給額が少なかったりすることもあるのです。
この記事では障害年金の審査に落ちやすいポイントや、審査落ちを回避するための対処法、審査結果に不服があった場合の審査請求について説明します。
障害年金の申請・審査前に受給条件を確認しよう
障害年金の審査前に、受給条件を満たしているかどうかも必ず確認しておきましょう。
障害年金の受給資格があるのは、次の条件をすべて満たす場合。まずはそれぞれの条件についてお伝えします。
すでに受給条件を確認済みの場合は、次の章「障害年金の審査ポイントを「落ちる原因」から説明!」まで読み飛ばしてください。
【1】障害年金には3つの『障害認定基準』がある
障害年金には次のような「障害認定基準」というものが設けられています。これは傷病の程度を表すものです。
・身体の機能の障害、または長期にわたる安静を必要とする病状
・日常生活を送るのが難しい状態
・他人の介助を必要とする状態
・身体の機能の障害、または長期にわたる安静を必要とする病状
・日常生活に著しく制限を加える必要がある状態
・労働により収入を得られることができない状態
・必ずしも他人の介助を必要とするわけでははいが、日常生活はほぼ困難な状態
・労働において著しい制限を受けるか、著しい制限を加えることを必要とする状態
どの障害認定基準に該当するかは、審査によって決定されます。1級は傷病の程度が一番大きいため、支給額も高いです。
障害厚生年金の場合は1・2・3級が障害年金の対象となりますが、3級の基準に満たない場合(3級よりもやや軽い程度の障害が残る状態)でも「障害手当金」を一時金として受給できます。
【2】『初診日が年金加入期間内にあること』も障害年金の受給条件
障害年金は、年金保険の加入期間中に初診日※があることも受給条件の1つです。
障害の原因となった病気・ケガについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日のことを指します。
ただし国民年金加入者の場合は例外があります。国民年金に加入していない年齢(20歳より前)または60歳以上65歳未満でも、国内在住中に初診日があれば、障害基礎年金の対象です。
さらに詳しい障害年金の受給条件・申請の流れについては「障害年金の申請前に確認!受給資格や申請方法」で解説しているので、申請を検討中の方は読んでみてください。
【3】障害年金を受けるには『保険料納付要件』を満たす必要がある
障害年金は、保険料納付期間が一定以上あることが受給条件です。
次の要件のうち、いずれかに該当すれば障害年金の審査に通る可能性があります。
- 「初診日のある月の前々月」までの保険料納付または免除期間が、年金加入期間の3分の2以上ある
- 初診日の時点で65歳未満であり「初診日の月の前々月までの1年間」に保険料の未納がない
障害年金の審査前に知っておきたい3つのポイント
障害年金の受給資格を満たしていても、思わぬところで審査に落ちてしまう可能性があります。障害年金の審査に通らないのは、主に次の3つの原因によるものです。
障害年金の審査ポイント1:初診日の証明をしっかりとる
先ほどお伝えしたように、障害年金を受けるためには原則「初診日が年金の加入期間中にあること」が条件。そのため、初診日がいつなのかを明確にしなければなりません。
証明する際には医療機関による証明書(カルテをもとに書いてもらう、診断書などの書類)が必要です。
しかし次のような理由で、初診を受けた医療機関の証明書が入手できない場合があります。
- カルテなど医療記録の保管期間※が過ぎたために破棄された
- 初診を受けた医療機関が廃業してしまった
転院した場合は、現在通っている病院ではなく、その傷病で最初にかかった病院の証明書が必要です。転院して5年以上経った場合も、書類が破棄されてしまい証明書がもらえない可能性があります。
それでも認められない場合は「第三者証明」を行うことで、障害年金の審査に通る可能性がありますよ。
それでは医療機関の証明書がない場合に提出可能な書類と、第三者証明の方法について説明します。
診断書以外の『初診日を証明できる書類』を複数用意する
診断書などで初診日が証明できない場合は、次のような資料を用意しましょう。
書類 | 交付申請先 |
---|---|
・身体障害者手帳 ・精神障害者保健福祉手帳 ・療育手帳 |
住んでいる市区町村の福祉課など |
身体障害者手帳などの申請時の診断書 | ・住んでいる市区町村の福祉課など ・診断書を書いてもらった医療機関 |
生命保険や損害保険、労災保険の給付申請時の診断書 | 診断書を提出した生命保険会社など |
交通事故証明書(警察に届けた場合) | ・警察署 ・最寄りの自動車安全運転センター |
労災の事故証明書 | 労働基準監督署 |
勤務先の健康診断記録 | ・勤務先 ・健康診断を受けた医療機関 |
インフォームド・コンセントによる医療情報サマリー | 発行した医療機関 |
健康保険の給付記録 | 初診日に加入していた健康保険組合や健康保険協会 |
次の受診医療機関への紹介状 | 作成した医療機関 |
電子カルテなどの記録(※1) | 初診日に利用した医療機関など |
お薬手帳 | 発行したすべての調剤薬局など |
糖尿病手帳 | 発行した医療機関など |
・領収証 ・診察券(※2) |
初診日に利用した医療機関など |
※2:可能な限り診察日・診療科がわかるもの
これらの資料を複数提出することで、初診日が保険加入期間内にあると認定され、障害年金の審査に通る可能性があります。
ただし資料提出だけでは、初診日を確定できず障害年金が不支給となってしまう恐れも。その場合は次の章で説明する「第三者証明」も合わせて行う必要があります。
初診日を証明できる人に『第三者証明』を依頼する
「第三者証明」とは、初診日を複数の第三者(友人、隣人、民生委員など)に証明してもらうこと。
第三者証明を行うには、初診日のことを知っている人に申立書の記入をしてもらい、日本年金機構に提出しなければなりません。
証明できるのは、次のような人。
- 友人
- 隣人
- 民生委員
- 三親等より遠い親戚
原則、複数人による証明の必要があります。
「初診日に関する第三者からの申立書」に記載してもらう事項は、次のとおりです。これらを記載できる人に依頼してみるといいでしょう。
- 障害年金の請求者の受診状況を、いつ・どのように知ったか
- 請求者との関係(受診を知った当時・現在)
- 傷病名
- 初診日
- 医療機関名・診療科とその所在地
- 申立者(第三者)が知っている当時の状況など
「初診日に関する第三者からの申立書」は、日本年金機構の公式ホームページでフォーマット・記入方法が記載されている資料をダウンロードできます。
障害年金の審査ポイント2:医師・歯科医師の診断書は必須
障害年金の審査において欠かせない書類のひとつが、診断書。
しかし「医師・歯科医師が診断書を書いてくれない」というケースもあります。
医師が正当な理由により診断書を作成しないのは、主に次のような場合です。
- カルテがないので診断書が書けない
- 障害年金の受給条件を満たしていないと判断している
- 診察期間が短く病状を判断できない
- まだ病状が固定しておらず、治療継続の必要があると考えている
このような正当な理由がある場合、無理に診断書作成を依頼するのはやめましょう。
違法でなかったとしても診断書に不備が発生しやすいうえに、病状を軽く書かれ不支給または支給額が少なくなる恐れもあります。
医師・歯科医師に診断書を書いてもらうのが難しい場合は、社労士(社会保険労務士)に相談することをオススメします。
有料ではありますが、申請者の代理として医師・歯科医師に診断書の作成を交渉してもらえますよ。
障害年金の審査ポイント3:医師・歯科医師に症状をきちんと伝える
医師の診断書があっても、記載された症状が実際より軽いと審査が通らない・障害認定基準が低く支給額が少なくなるといった恐れがあります。
また、ツライときでも気丈に振る舞ってしまう人は、診察の際にもしっかりして見える場合があるため「それほど症状は重くない」と思われてしまう恐れがあります。遠慮して症状を軽く言ってしまう人も要注意です。
症状を正確に伝えられる自信がない人は、障害年金の申請を社労士に代行してもらうのも方法のひとつです。
次のような方法でサポートしてもらえます。
- 診断書に書いてほしい内容を医師に伝えてもらえる
- 診療で病状をどう伝えるか、アドバイスしてもらえる
障害年金の審査は不服申し立て(審査請求・再審査請求)も可能
審査請求・再審査請求する場合は、次の期限までに行いましょう。
期限 | |
---|---|
審査請求 | 「決定があったことを知った日の翌日」から起算して3カ月以内 |
再審査請求 | 「決定があったことを知った日の翌日」から起算して2カ月以内 |
障害年金の不服申し立てについては「障害年金の不服申し立て方法!審査請求書の書き方・診断書の修正に注意」で、詳しい手順・そのほかの注意点を紹介しています。
障害年金は定期的な状況確認で減額・支給停止になる場合もある
障害年金には「有期認定」と「永久認定」があります。
障害の程度が変化する、または完治する可能性がある場合は「有期認定」となり、定期的に書類提出をして年金の支給額変更・支給の継続について再審査を受けるのです。
ただし状態が悪化した場合には、申請時よりも障害認定基準が上がる(障害年金の支給額が高くなる)可能性もあります。
障害年金の受給期間、どのような場合に支給停止になるかは「障害年金の受給期間はいつまで?停止したら審査請求・支給再開も検討」で詳しく説明しているので、こちらも読んでみてくださいね。
障害年金の審査ポイント・対策方法をおさらい
・障害年金の受給条件を確認しておく
・保険料の納付状況を確認しておく
・初診日を証明する(カルテがなければ第三者証明を行う)
・医師・歯科医師へ症状を具体的に伝え、診断書にしっかり反映してもらう
審査結果に不服がある場合は、審査請求をすることで「支給が認められた」「認定等級が上がった」となる可能性もありますよ。
ただし有期認定の場合は、障害年金の審査が通っても定期的に状況確認が行われます。
症状の回復・悪化により障害年金の支給額が変更されたり、支給停止になったりする場合もあることを覚えておきましょう。
障害年金は老齢年金等とは違い、様々なパターンがあるため手続きが一律ではありません。また、不服申立手続きが多いのも特徴と考えます。不服申立は専門知識を要することからしっかりとした知識/理論を備え持つことが必要になり信頼できる専門家に助けを求めるのも一案です。
ネットワークエンジニアとして活動後、都内社会保険労務士事務所に勤務。
現在は個人事務所(労務・年金相談安達事務所)として活動している。
障害年金の審査が厳しくなったということでしょうか・・・。もし障害年金が必要になっても、審査に落ちたらと思うと不安です。