
退職金の前払い制度とは?選択制なら確定拠出年金とどっちがお得?
「退職金を、会社をやめる前にもらえる」そんな退職金の前払い制度が、多くの企業で導入されています。しかし「退職前にお金をもらえてラッキー!」と、手放しでよろこぶのは性急かもしれません。
退職金を退職時にもらうか、前払いするかによって、実は「税金」や「社会保険料」に影響がでてくるのをご存知でしょうか?
退職金前払い制度のメリットやデメリットをしっかりと理解し、ご自身にあった退職金制度を選びましょう!退職金の前払い制度について、わかりやすく解説します。
退職する前にお金がもらえるって本当?退職金の「前払い」制度とは
そもそも「退職金」とは、企業が従業員への長年にわたる功労へのねぎらいと、従業員の定着を促すために設ける給付制度です。
基本的に勤務年数と比例して支給額が増える退職金は、従業員が定年退職を迎えるまでずっと一つの職場で勤務し続けるひとつの要因となっていました。
しかし昨今、転職市場が活発化し「定年までひとつの企業で働く」という勤労スタイルが崩れつつあります。そこで勤務年数に応じて支払われていた退職金制度にも、多様なパターンが生まれました。そのひとつが「退職金の前払い制度」です。
退職金の前払いとは、退職時に支払われるはずの退職金を分割し、月々の給与や賞与に上乗せして支給する制度です。
在職中でありながら、先んじて退職金がもらえるため、転職をしてキャリアアップを図る現代の働き方にもマッチする制度にもなっています。
このような退職金の前払い制度を導入している企業は、基本的にはいくつかの退職金制度から選べる『選択制』を採用しています。退職金の前払い制度を理解するために、まずは他の退職金制度にどのようなものがあるかをみていきましょう。
あなたの会社はどの制度?退職金制度の種類は大きく分けて3つ
「退職金」とは、あくまで企業ごとに規則を設け、支払い内容や条件を規定している給与制度です。法律で規定が定められているわけではありません。制度は時代や企業により異なりますが、大きく分けて以下の3つに分けられます。
1.退職一時金
退職時に、会社から従業員へ一括で退職金を支払う制度です。終身雇用があたりまえだった時代、この従業員が定年時に一括で受け取れる退職一時金が一般的でした。現在でも導入している企業は多くあります。
会社の就業規則にもよりますが、退職金の支給額は、基本的に『勤務年数』に応じて支払われます。
2.企業年金
従業員が退職をしたあと「年金」として退職金を分割して支払う制度です。支払い期間や金額は各企業の規定によって異なり、5年や10年などの一定期間タイプや、生涯にわたって支給する終身タイプがあります。
企業年金のなかには、確定給付年金・確定拠出年金・厚生年金基金の3つの種類があります。
それぞれの仕組みや違いについては次の記事を参考にしてください。
3.退職金の前払い
退職金を分割して、月々の給与や賞与に上乗せして受け取る制度です。この退職金前払い制度は、1998年に松下電気産業(現パナソニック)が導入したことで注目をあつめました。基本的には前払い制度もしくは他の制度から従業員が自分で選択できます。
慎重に考えよう!退職金を前払いするメリット・デメリット
退職金前払いのメリット
退職金を前払いすることによるメリットは、なんといっても「給与の手取りが増える」ところです。
将来もらえるはずの退職金が、月々の給与や賞与に上乗せして支払われるため、若年層で給与の少ない場合や、家庭を持ち生活費がかかる場合など、「今お金が必要」という人にとってはうれしいメリットです。
若年のうちに月々使えるお金が増えれば、自己啓発や資格取得など資金用途の幅が広がり、退職後とは違ったお金の使い方もできますよね。
さらに将来の業績悪化により、長年勤めたあげく「退職金がもらえなかった」という事態へのリスクを回避できるほか、転職に対するハードルも下げるメリットもあります。
退職金前払いのデメリット
退職金を前払いするデメリットは、退職金が「給与所得」とみなされ、税金や社会保険料の負担額が増えるところです。
通常の退職金は、退職所得控除や他の所得と別で課税されるなど、税負担が軽減されるしくみとなっています。
しかし、退職金を前払いして現金で受け取った場合、給与所得として扱われるため、所得税・住民税・社会保険料などの負担が増えることになります。
せっかく毎月の給与が増えたとしても、その分税金や保険料が増えれば、実際に使える金額も減ってしまいます。
たとえば年収が600万円の場合、おおよその所得税が13%ほどです。もし退職金の前払いで月2万円を支給されたとしても、簡単に計算すると約2000円が徴収されてしまうことになりますね。
さらに所得税だけでなく、住民税や社会保険料も差し引かれます。
そして退職金前払いで受け取るなら、もちろん退職時には退職金を受け取ることができません。退職前から上手に資産運用や貯蓄をしていない限り、退職後や定年後の生活に不安を残すことになるでしょう。
結局どれを選ぶべき?退職金前払いと確定拠出年金の比較ポイント2つ
ポイント1:企業型確定拠出年金を知ろう
退職金の前払い制度を採用している企業では、ほとんどの場合「確定拠出年金」という制度との選択制をとっています。確定拠出年金とは、退職金を前払いで現金として受け取るのではなく、「掛金」として資産運用をする仕組みです。
企業型確定拠出年金は企業が退職金を「掛金」として毎月一定額を拠出し、従業員が自分で資産運用をします。確定拠出年金による積み立て資金は、原則60歳以降に年金として受け取ることができます。
年金制度で支払われる給付の原資に充てるため払込む資金のことです。
この確定拠出年金の制度は、国民の生活の安定と福祉の向上のために設けられた日本の年金制度のひとつです。この制度による掛金には、税金・社会保険料がかからないというメリットがあります。
退職金を前払いで現金として受け取るのではなく、掛金として資産運用に回せば、税金・社会保険料の負担を回避することができ、運用結果によっては一時金として受け取るよりも支給額を増やせる可能性もあります。
企業型確定拠出年金をさらに知りたいという人は次の記事もチェックしてみてくださいね。
ポイント2:個人型確定拠出年金を検討しよう
もし企業が「確定拠出年金」を導入していない場合でも、iDeCo(イデコ)と呼ばれる個人型確定拠出年金制度を利用することができます。この制度でも、企業型確定拠出年金と同様に掛金の全額所得控除や税制優遇を受けられるというメリットがあります。
前払いとして受け取った退職金を、現金としてそのまま使うのではなく、個人型確定拠出年金の掛金にすることで、税金や社会保険料の負担を軽減でき、将来の不安にもそなえておくことができますね。
iDeCoがどのような制度かは「iDeCo(イデコ)完全ガイド!運用のポイントと注意点を徹底解説」の記事でわかりやすく解説しています。
自身のキャリアに合わせて賢く退職金を選ぼう!
退職金の前払い制度が導入されたことで、多様なキャリアに合わせた働き方を可能にしました。
しかし、退職金の前払いにも、現金として手取りが増える分、税金や保険料の負担が増えるというメリット・デメリットがあります。
ご自身で選択できるからこそ、「今できることに投資したい」か「将来の暮らしに備えたい」か、などそれぞれのライフプランやキャリアに合わせた最適な制度を選びたいですね。退職金のしくみを理解し、会社の制度を上手に活用して、お金も心もゆとりのある暮らしを目指しましょう!