退職金の受け取り方で税金が変わる!一時金と年金でお得なのはどっち?
「退職金は一括で受け取るものだ」と思われていませんか?退職金は「年金」で受け取ることもできます。そして、退職金の受け取り方で実際にもらえる金額が異なることをご存知でしょうか?
退職金を「一時金」で受け取る場合、「年金」で受け取る場合、それぞれに税金や社会保険料のかかり方が異なります。
ここでは実際に「一時金」「年金」のどちらがお得なのかをわかりやすく解説していきましょう。どのような税金がかかるのか、具体的な税金の計算方法や確定申告などの手続きの方法もしっかりご説明しますよ。
3種類ある退職金の受け取り方の違い(一時金・年金・併給)
退職金は、会社の退職金規定に基づいて支給されるものですが、退職金の受け取り方には次の3つの方法があります。自社の退職金の受け取り方はどれにあたるのか退職金規定で確認しておきましょう。
退職一時金 | 退職金の全額を一括して受け取る。 |
---|---|
年金 | 退職金を一定期間または終身で分割して受け取る。 |
併給(退職一時金+年金) | 退職金の一部を一時金として受け取り、残りを年金として分割して受け取る。 |
会社は必ずしも受け取り方法を選択できる規定にしなければならないわけではないので、まずは会社の退職金規定で受け取り方法を確認することが大切です。
退職金を一時金で受け取る場合にかかる税金
退職金を受け取る場合、全額をもらえる訳ではなく、退職金にも税金がかかります。ここでは、退職金を一時金で受け取る場合にかかる税金の仕組みについて解説します。
一時金で退職金を受け取れば税金が軽減される
退職一時金には3つの税金がかかります。
- 所得税
- 復興特別所得税
- 住民税
しかし退職金は永年勤続による報償的な給料を一時金として支払われるものなどの理由から税負担が軽減されるような仕組みとなっています。
「分離課税」とは?税負担が軽減される仕組み
退職一時金の税負担が軽減される仕組みの一つに、課税方法が異なる点があります。
本来、所得税は所得合計を基に税額を算出して税金を納める「総合課税」ですが、退職一時金の場合は、他の所得と分離して税額を算出する「分離課税」になるのです。
所得税の税率は所得が高くなるほど税率が高くなる仕組みですので、「総合課税」よりも「分離課税」の方が、一般的には税負担が軽減されることになります。
退職所得と給与所得は違うもの!所得の区分で税金は変わる
退職金にかかる税金を計算する際、退職所得について理解しておく必要があります。それでは退職所得とは何でしょうか?
退職を理由に会社から一時金として受け取る退職金をさします。
退職時に受け取ると「退職所得」、在職中に受け取る給料や賞与などは「給与所得」です。
所得の区分によって税金の計算方法が異なるため、どちらに該当するのかを明確にしておくことが必要となります。
退職所得の計算式は「保険金や掛金の拠出」と「役員」で異なる
退職所得の計算式は次のとおりです。課税対象額が2分の1で済むため、税負担が軽減される仕組みであることが分かります。
社員自らが負担した保険料や掛金がある場合
確定給付企業年金規約に基づいて支給される退職一時金などで、社員自らが負担した保険料や掛金がある場合は、「支給額-保険料・掛金(自己負担分)=退職金の総支給額」となります。
役員などの勤続年数が5年以下の場合
役員などの勤続年数が5年以下である方が受け取る退職金のうち、役員などの勤続年数に応じて受け取る退職金については、平成25年分以降は「退職金額-退職所得控除額=退職所得金額」となります。「2分の1」とすることができませんので注意が必要です。
退職所得控除額の計算方法
退職所得は「退職所得控除額」により税負担が軽減される仕組みとなっています。ここでは、退職所得控除額の計算方法について理解しましょう。
退職所得控除額は次の「退職所得控除額の計算表」に基づいて計算します。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
20年を超える | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
- 勤続年数が1年未満の時は、1年に切り上げて計算する
- 障害者になったことが原因で退職した場合は、上記の計算額に100万円を加えた金額となる
- 前年以前に退職金を受け取った、または同一年中に2ヶ所以上から退職金を受け取る時などは、計算方法が上記と異なることがある
要するに勤続20年までは毎年40万円ずつ、勤続20年以降は毎年70万円ずつ、退職金の控除額が増えていく計算になります。
例えば、同じ会社に40年間勤めたサラリーマンの方であれば、2,200万円までなら退職金に税金がかからずに受け取ることができるということですね。
退職金を一時金で受け取った場合の税金の計算例
実際に退職所得にかかる税金は速算表で計算した税額と、この税額に2.1%の復興特別所得税が所得税としてかかり、退職所得の10%(市町村民税6%+都道府県民税4%)が住民税としてかかります。
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
計算式 | 金額 | |
---|---|---|
退職所得金額 | {25.000,000円-(8,000,000円+700,000円×(40年-20年))}×1/2 | 1,500,000円 |
所得税 | 1,500,000円×5% | 75,000円 |
復興特別所得税 | 75,000円×2.1% | 1,575円 |
住民税 | 1,500,000円×10% | 150,000円 |
一時金でも賞与と異なり、退職金の場合は社会保険料はかからない
通常ボーナス(賞与)を受け取った場合、所得税はもちろん、社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)が総支給額の15%程度かかります。
しかしながら退職一時金には社会保険料が全くかかりません。
また退職後に国民健康保険に加入した場合、前年の所得額に応じて保険料が算定される仕組みとなっています。
退職所得は、保険料算定の基礎に含まれないことが地方税法により定められていますので、国民健康保険料の負担も軽減されるんです。
退職一時金は「退職所得の受給に関する申告書」の提出が必要!
この申告書を提出した場合は、会社が退職所得に応じた税金を計算して納めてくれるので原則として確定申告は不要です。
ちなみに「退職所得の受給に関する申告書」は、退職金を支払った会社が保管しておくものですので、特に税務署へ提出する必要はありません。
退職金を年金で受け取った場合の税金を考えよう
退職金を一時金で受け取るよりも年金で受け取った方が、退職金の原資による運用益が少しでも加算されるため、受取総額は多くなると考えていないでしょうか?
ここで注意しなければならない点は退職一時金同様、「いくらの税金や社会保険料がかかるのか?」という点です。ここでは、退職金を年金で受け取る場合にかかる税金や社会保険料の仕組みについて解説します。
退職金を年金で受け取る場合は「雑所得」となる!
退職金を一時金で受け取る場合は「退職所得」として税金がかかりましたが、退職金を年金で受け取る場合は「雑所得」として税金がかかることになります。
雑所得は退職年金のほか、国民年金や厚生年金などの公的年金、原稿料や印税などをさします。
一般的な雑所得の計算は、総収入金額から必要経費を控除することで求められますが、公的年金などを含む雑所得の場合、次のとおり計算した税金がかかります。
ここで注意しておかなければならない点は、年金を受け取った年ごとに税金がかかるという点です。所得税のほか、住民税についても受け取った年の次年度に影響することになります。
雑所得は「公的年金等に係る雑所得の速算表」に基づいて計算します。
雑所得の具体的計算例
計算式 | 金額 | |
---|---|---|
雑所得 | 200万円×75%-375,000円 | 1,125,000円 |
所得税 | 1,125,000円×5% | 56,250円 |
復興特別所得税 | 1,125,000円×0.105% | 1,181円 |
計算式 | 金額 | |
---|---|---|
雑所得 | 200万円×100%-120万円 | 80万円 |
所得税 | 80万円×5% | 40,000円 |
復興特別所得税 | 80万円×0.105% | 840円 |
他に所得がある場合は、その所得と合わせて課税されることになりますので注意が必要です。
退職金を年金で受け取る場合も社会保険料はかからない
退職金を年金で受け取る場合においても社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)はかかりません。
ただし退職後に国民健康保険に加入した場合、公的年金に加えて退職年金が加算された収入が保険料算定の基礎に含まれることになるため、退職年金分、保険料が高くなると考えられます。
なお介護サービスの自己負担割合は通常1割負担で、一定所得以上は2割負担でしたが、2018年8月からは特に所得が高い場合は3割に引き上げられました。
老齢基礎年金と老齢厚生年金とは?間違いやすい公的年金
退職金を年金で受け取る場合、多くの方は併行して公的年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)を受け取るケースが多いでしょう。
老齢基礎年金とは
原則として65歳から受け取ることのできる公的年金です。40年間の全期間保険料を納めた場合、満額で779,300円(平成30年4月分より)を受け取ることができます。
しかしながら保険料の納付済期間が30年間であった場合は、満額の4分の3の年金となります。
老齢厚生年金とは
老基礎年金に上乗せして受け取ることのできる年金です。1年以上社会保険に加入していた方であれば、加入時の平均給料(平均標準報酬月額)や加入期間、年齢などに応じて支給されます。
受取時期は性別と生年月日により異なりますが、男性の場合は昭和36年4月2日以後生まれ、女性の場合は昭和41年4月2日以後生まれの方については65歳から受け取ることができます。
退職金の受給開始年齢はいつ?会社によって異なるため確認が必要
退職金を年金で受け取る場合、何歳からもらうことができるのかご存知ですか?
受取開始年齢については会社や企業年金のルールによって異なりますので、一概にはいえませんが、一般的には60歳または公的年金の支給開始年齢に合わせているケースが多いでしょう。
老後のライフプランをたてる上で大切ですので、退職年金の支給開始年齢についてはしっかりと確認しておきましょう。
退職金を年金で受け取ったら確定申告を忘れずに
退職金を年金で受け取る場合は雑所得となりますので、所得控除を差し引いた際に残額がある場合は確定申告を行う必要があります。
ただし公的年金などの収入合計金額が400万円以下であって、公的年金などの所得金額が20万円以下である場合は確定申告の必要はありません。
この場合であっても医療費控除による還付などを受ける際には確定申告を行うことができます。
働き続けると支給停止の可能性も?在職老齢年金に注意
定年退職をしても再雇用してもらい働くケースも少なくないと思われます。この場合、働きながら年金をもらうことになりますが、社会保険に加入している方については年金額と給料額に応じて年金額が一部または全額支給停止される仕組みがあります。
この仕組みを「在職老齢年金」といいます。
一方で65歳以降の場合は支給停止調整額の金額が増え、同様の支給停止の仕組みとなります。この場合、老齢基礎年金については支給停止の対象とはなりません。
一度支給停止された年金は二度ともらうことはできませんので、働きながら年金を受け取る方は年金月額と給料や賞与額について確認しておくことが大切です。
また退職金を年金で受け取る方の中で厚生年金基金が支給される場合は、一部の年金を支給停止される恐れがありますので、あらかじめ基金に確認されておく方がよいでしょう。
ちなみに他の企業年金(確定給付企業年金や確定拠出企業年金)を受け取る場合は、在職老齢年金の支給停止には関係ありません。
老後も年金をもらいながら働く予定だという人は、次の記事もあわせてチェックしてみてくださいね。
退職金の受け取り方のメリットとデメリットまとめ
ただし退職金を一時金で受け取る場合は税金面の優遇を受けることができます。国民健康保険料の算定基礎に含まれませんし、医療費や介護サービスの負担割合の収入にも含まれません。
これらのことを加味すると手取り額は年金よりも一時金が多くなると考えられるでしょう。
大切なことは、現状の制度を理解しておくことと、今後の変化に対応するために日頃から情報を得ておくことにあると思います。
退職金の受け取り方はあなたのライフプラン次第!
税金や社会保険料などを考慮すると「一時金」が一番お得な退職金の受け取り方といえます。しかしながら、「年金」で受け取る場合であっても利率や受取年数などによっては必ずしも損になるとはいえないケースもあります。
また年金が終身であった場合は、長生きすればするほどお得になるのは言うまでもありません。
年金と一時金を併用して受け取る場合においても、一時金と年金の受取比率を様々なパターンで受け取ることができるケースもあります。