
国民年金を払わないと財産差し押さえに!制度利用・追納で対処しよう
厚生年金の保険料は給料から自動的に差し引かれますが、自営業の人や学生などが加入する国民年金は被保険者自身が納付しなければなりません。しかし国民年金を払わない人もいるのが現状。その理由は主に次の2つです。
- 「国民年金は払わないといけない」ということを知らない
- 経済的な事情により、国民年金の保険料を納付できない
国民年金の保険料を滞納すると督促状が届き、最悪の場合、財産を差し押さえられることもあります。
経済的に納付が難しい場合は、放っておかず年金事務所などへ相談しましょう。「保険料免除制度」や「保険料納付猶予制度」などの制度を利用すれば、納める保険料の全額または一部が免除されたり、一定期間の保険料納付が不要になったりします。
この記事では、国民年金の納付義務や、国民年金を払わないことによるデメリット、ペナルティについて解説。どうしても払えないときの対処法も紹介します。
国民年金の保険料は払わないとダメ!
日本国内に住んでいる人は、原則20歳から60歳まで国民年金の被保険者となります。
国民年金の納付義務は国民年金法で定められているため、被保険者は保険料を支払わないといけないのです。
被保険者は、保険料を納付しなければならない。
2 世帯主は、その世帯に属する被保険者の保険料を連帯して納付する義務を負う。
3 配偶者の一方は、被保険者たる他方の保険料を連帯して納付する義務を負う。
ただし「第2号被保険者(※1)」と「第3号被保険者(※2)」には、国民年金の納付義務がありません。
厚生年金や共済に加入している人のことです。
第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者で、年収が130万円未満の人がこれに該当します。
第2号の厚生年金や共済は、国民年金の上乗せのようなもの。つまり厚生年金や共済に加入している人は、国民年金の被保険者でもあります。国民年金の保険料も、加入している制度でまとめて徴収されているのです。
また第3号被保険者の場合も、国民年金の支払い義務はありません。第3号被保険者の配偶者が加入している制度で、保険料が一括負担されています。
国民年金を払わないとどうなる?最悪の場合財産の差し押さえも
国民年金保険料の納付期限は、納付対象月の翌月末日。納付期限を2年以上過ぎてしまうと、「未納分」と見なされます。
そして国民年金をいつまでも滞納していると、最終的には財産を差し押さえられてしまうことに。
もちろん、未納期間が発生したらすぐ差し押さえられるというわけではありません。国民年金保険料の未納が発生してから、財産差し押さえまでの過程を見てみましょう。
- 催告状が届く
- 電話や戸別訪問による督促が行われる
- 最終催告状が届く
- 督促状が届く
- 財産の差押予告書が届く
- 差し押さえが実行される
催告状とは「国民年金未納保険料納付勧奨通知書」のこと。国民年金を滞納している人に送られるハガキです。未納金額や保険料を納めていない月数などが記載されています。
「保険料を納付したはずなのに催告状が届いた」「保険料の免除(これについては後ほど説明します)をしているのに催告状が届いた」という人は、行き違いになっている可能性が高いです。
不安なら年金事務所へ問い合わせて、未納分がないか確認するといいでしょう。
催告状やこれらの督促に応じない場合は、最終催告状が届きます。それでも未納のままにしていると、財産の差押予告書が送られてくるのです。
国民年金を払わないと老後にもらえる年金が減る
ここまで説明したように国民年金は納付義務があり、払わないでいると財産差し押さえの恐れがあります。
それだけではありません。国民年金を払わないと、将来もらえる年金が少なくなったり、まったく受け取れなくなったりするのです。
それぞれのデメリットについて順番に説明します。
国民年金を払わないと老齢基礎年金の支給額が減る!
国民年金の被保険者は、原則65歳から老齢基礎年金をもらうことができます。
老齢基礎年金の支給額は国民年金保険料の納付期間によって異なるため、未納期間があるともらえる年金が減ってしまうのです。
国民年金の支給額については次の記事で、計算方法などを説明しています。こちらも参考にしてください。
老齢基礎年金がまったく受け取れない恐れもある!
老齢基礎年金を受給できるのは、10年以上の資格期間※がある人です。
次の期間を合計したものです。
・国民年金の保険料を納めた期間と、免除された期間
・船員保険を含む厚生年金保険・共済組合などの加入期間
・合算対象期間(カラ期間)※
国民年金保険料の未納により資格期間が10年に満たなかったら、老齢基礎年金をいっさい受け取ることができません。
老齢基礎年金は基本的に65歳からもらえるもの。健康状態などにより働くのが難しくなっていく年齢で、年金も受給できないことを想像するとゾッとしますね。
国民年金を払わないと、障害基礎年金や遺族基礎年金がもらえない!?
国民年金の滞納によって、障害基礎年金(※1)や遺族基礎年金(※2)をもらえなくなる場合も。
国民年金の加入期間に、初診日のある病気やケガで1級・2級の障害の状態になったときに受給できる年金のことです。
障害基礎年金の内容や受給条件などは、次の記事で詳しく説明しています。
「国民年金の被保険者」または「老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある人」が死亡した場合に支給される遺族年金のこと。「子のある配偶者」や「子」が受給対象者です。
遺族基礎年金の利用条件や受給期間などについては「遺族年金はいつまでもらえる?受給条件と受給期間を確認しよう」を読んでみてください。
次の期間に国民年金保険料の未納がある場合、それぞれの年金をもらえなくなってしまいます。
障害基礎年金 | 初診日※の月の前々月までの1年間 |
---|---|
遺族基礎年金 | 死亡日の月の前々月までの1年間 |
国民年金保険料を払わないと、万が一のとき、あなたや家族が困ることになるのです。
国民年金を払えないなら免除・猶予制度を利用しよう!
失業した人や収入の少ない人など、経済的な事情により国民年金を払えない人もいますよね。
国民年金の納付が難しい場合は「国民年金保険料免除・納付猶予制度」と「学生納付特例制度」を利用できるか確認しましょう。
各制度の内容は次のとおりです。
制度 | 内容 |
---|---|
保険料免除制度 | 納めるべき保険料の全額または一部が免除される |
保険料納付猶予制度 | 一定期間、保険料の納付が猶予(先送り)される |
学生納付特例制度 | 在学中の保険料納付が猶予される |
これらの制度の対象者であれば、このようなリスクを回避できます。
次の章から、国民年金保険料の納付が難しい人のための制度について内容・利用条件を見ていきましょう。
【1】国民年金の保険料免除制度
「保険料免除制度」とは、納めるべき国民年金保険料のうち全額または一部が免除される制度。
免除される金額は「全額」「4分の3」「半額」「4分の1」の4通りです。
この制度は次のいずれかに該当し、被保険者本人が申請をして承認を受けた場合に利用できます。
- 本人・世帯主・配偶者の前年所得※が一定額以下
- 失業などにより保険料納付が困難になった
では保険料免除制度の対象となる所得の基準と、制度利用時の注意点について説明します。
保険料免除制度の対象となる本人・世帯主・配偶者の前年所得
保険料免除制度は、所得によって保険料の免除額が異なる制度。
本人や世帯主、配偶者の前年(または前々年)所得が、次の表の「所得基準」の範囲内である場合、それに応じた金額が免除されます。
免除額 | 所得基準 |
---|---|
全額 | (扶養親族などの数+1)×35万円+22万円 |
4分の3 | 78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額など |
半額 | 118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額など |
4分の1 | 158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額など |
保険料免除制度の注意点!減額後が未納だと年金がもらえない恐れも
保険料免除制度で一部免除(4分の3、半額、4分の1)になった場合、減額された後の保険料は必ず納めましょう。
免除額の残りを未納のままにしておくと、老齢基礎年金や障害基礎年金をもらえなくなる恐れがあるので注意が必要です。
また国民年金保険料の減額分は10年以内に納めることをオススメします。その理由については、後ほど「制度により免除・猶予された国民年金保険料は追納しよう!」の章で確認してください。
【2】国民年金の保険料納付猶予制度
国民年金の保険料納付猶予制度とは、承認された期間の保険料納付が猶予される制度のこと。
保険料納付の猶予を申請できるのは、20歳以上50歳未満で次のいずれかに該当する人です。
- 本人・配偶者の前年所得※が一定額以下
- 失業などにより保険料納付が困難になった
前年所得(または前々年所得)の基準は次のとおり。この金額以下なら、納付猶予制度の申請が可能です。
この制度を利用した場合も、10年以内に追納するのがオススメ。詳しい内容は「制度により免除・猶予された国民年金保険料は追納しよう!」の章でお伝えしますね。
学生は「保険料免除制度」と「保険料納付猶予制度」の対象外ですが、「学生納付特例制度」により在学中の支払いを先延ばしにできます。詳しくは次の章で説明します。
【3】国民年金の学生納付特例制度
国民年金は20歳以上の被保険者に納付義務がありますが、学生であれば「学生納付特例制度」によって在学中の支払いが猶予される場合も。
この制度を利用すれば、年金を受け取るために必要な資格期間や障害基礎年金の受給資格が失われることもありません。
学生納付特例制度が適用されるのは、次のような学生です。
- 本人の本年度所得が「118万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除など」以下
- 大学、大学院、短期大学、高等学校、高等専門学校、特別支援学校、専修学校、各種学校(※1、2)、一部の海外大学の日本分校(※3)に在学している
※2:私立の場合、都道府県知事の認可があれば該当
※3:日本国内にあり、文部科学大臣が個別に指定した課程
対象となる学校は、日本年金機構公式ホームページにある「学生納付特例対象校一覧」で確認できますよ。
この制度の場合も10年以内に追納すれば、未納分による年金の減額を防げます。追納のメリットについては、最後の章「制度により免除・猶予された国民年金保険料は追納しよう!」を読んでみてください。
国民年金の免除・猶予制度には特例もある
ここまで国民年金が払えない場合の対処法として、3つの納付免除・猶予制度を紹介しました。これらの制度には特例があるので、一緒に覚えておきましょう。
特例の対象者は、必要書類の提出・申請を行うことで、本人所得が審査対象から除外されます。
対象者と、特例が適用される期間は次のとおりです。
対象者 | 特例適用期間 |
---|---|
失業した人 | 退職日翌日の前月~失業した年の翌々月の6月 |
自営業の人 | 廃業または失業の前月~廃業または失業した年の翌々月の6月 |
被災者 | 被災年月日の前月~被災した年の翌々年の6月 |
ただし退職した人以外には所得審査があり、前年所得が一定金額を超えると制度は利用できません。
制度により免除・猶予された国民年金保険料は追納しよう!
先ほど説明した制度で免除・猶予された国民年金は、10年以内であれば後払い(追納)も可能。国民年金の追納には、次のようなメリットがあるんですよ。
- 支給される年金額が増える
- 所得税・住民税が軽減される
国民年金の免除・猶予制度を利用した場合、将来もらえる老齢基礎年金が減ってしまいます。
しかし保険料を追納すれば、減ってしまった老齢基礎年金の支給額を補うこともできるのです。
ただし免除で減額された残りの保険料を納付していない場合、追納もできません。
国民年金の追納をする場合は、まず年金事務所で申し込みを行ってくださいね。
また「加入期間が10年に満たないから、老齢基礎年金の受給資格がない」という人も、60歳以上65歳未満なら任意加入制度、第3号の届け出忘れなら特定期間該当届・特例追納制度を活用すれば年金をもらえる可能性があります。
国民年金の納付は義務!払えないなら早めに制度の手続きを
国民年金を滞納していると催告・督促が届き、最悪の場合は財産を差し押さえられることも。払わずに放置することは大変危険です。
また将来もらえる年金が減ってしまったり、一切もらえなくなったりなど、国民年金の滞納は老後生活にも大きく影響します。
納付期限までに支払いをして、将来のリスクを回避することが重要なのです。
経済的な理由で払えない人は国民年金免除・納付猶予制度を利用してください。制度が利用できるか判断できない場合は、役所や年金事務所に相談しましょう。
将来もらえる年金が減らないよう、免除された国民年金は追納することをオススメします。
国民年金の保険料は月16,410円(平成31年度)となっており、毎月保険料を納めることを負担に感じる人もいるでしょう。
しかし、いけないことは払えないからといって放置し、未納にしてしまうこと。
納めるのが困難な人は、市役所や年金事務所で相談をし、免除や猶予の制度を積極的に活用するようにしてください。

日本年金機構、社労士法人勤務を経て開業。中小企業の労務管理に従事する一方、年金相談窓口や無料相談会などで年金相談を受けている。