パートが厚生年金に加入する条件とメリット・デメリット
パートやアルバイトでも、条件を満たせば会社には厚生年金への加入義務が生じるんですよ。
ただし給料の手取りが減り、配偶者控除の対象からも外れることで、現時点では「払い損」と感じる人もいます。
ではパートが厚生年金の加入対象となる条件や、厚生年金に加入するメリット・デメリットを説明します。
パートに厚生年金への加入義務が生じるケース(加入条件)
「パートやアルバイトだと、厚生年金保険の加入対象にならない」と思っている人も多いですが、正社員やフルタイムパートでなくても、厚生年金の加入対象となる場合があります。
ただし短時間勤務であるパート・アルバイトには、別途条件が設けられているのです。
厚生年金の基本的な加入条件と、パート・アルバイトが知っておくべき加入条件を見てみましょう。
【1】まずは厚生年金の基本的な加入条件を確認しよう
厚生年金の被保険者となるには、まず厚生年金に入っている事業所(適用事業所)に勤務していることが条件。適用事業所は次の2種類です。
適用事業所 | 内容 |
---|---|
強制適用事業所 | 次のいずれかに該当する事業所 ・法人の事業所 ・従業員が常時5人以上いる個人の事業所※ |
任意適用事業所 | 「強制適用事業所」ではないが、従業員の半数以上の同意のもと、厚生労働大臣の認可を受けた事業所 |
- 70歳未満※
- 2カ月を超える労働契約を結んでいる
では次の章で、パート・アルバイトが厚生年金の加入対象となる条件を説明します。
【2】パート・アルバイトが厚生年金の加入対象となる条件
短時間勤務のパート・アルバイトが厚生年金に加入するには、まず正社員の労働時間・労働日数の4分の3以上働いていることが条件です。
しかしその条件に満たない場合でも、次の条件を満たせば厚生年金の加入者となります。
- 従業員が常時501人以上※の企業(特定適用事業所)に勤めている
- 週の所定労働時間が20時間以上ある
- 1年以上の雇用期間が見込まれる
- 賃金の月額が88,000円以上である
- 学生でない
この条件のうち「学生でない」という項目に該当しなくても、次のような場合は厚生年金の被保険者となります。
- 卒業後も引き続き同じ事業所で勤務する
- 休学中である
- 夜間学部や夜間の定時制に通っている
パートも厚生年金への加入を検討すべき!3つのメリットを紹介
ママ友はみんな夫の扶養内で働いていて、厚生年金には入っていないんです。周りが加入していないなら、私も加入対象にならない働き方をしたほうがいいのかしら・・・。
厚生年金の加入によるメリットは次のとおりです。
- 保険料を会社が折半してくれる
- もらえる老齢年金が多くなる
- 健康保険の制度も手厚い
【1】パートが厚生年金に入ると保険料は労使折半!
厚生年金の保険料(月額)は、被保険者本人と事業主が半分ずつ納める「労使折半」です。
国民年金に加入している場合は、保険料を全額自己負担しなければなりません。しかし厚生年金の場合は、労使折半により自己負担分を軽減できます。
ただ配偶者の扶養に入っている場合は年金保険料、健康保険保険料がかからないので、そもそも保険料を支払う必要がありません。
「人によっては厚生年金への加入がメリットにならないケースもある」ということをおさえておきましょう。
それに対して厚生年金の保険料は、給料・賞与(ボーナスなど)やその年の保険料率により決まります。そのため国民年金の保険料より高くなる場合もあるのです。
いざという時や将来のためのお金を確保しておくなら、多少保険料が高くなっても厚生年金のほうがオススメです。
【2】パートが厚生年金に入ると年金を多くもらえる
厚生年金に加入すると、老後にもらえる年金「老齢年金」の金額が多くなります。
原則20歳以上65歳未満の人は、国民年金に加入しています。国民年金加入者が受給する老齢年金は、老齢基礎年金のみです。
しかし厚生年金は国民年金に上乗せされるので、もらえる年金は老齢基礎年金・老齢厚生年金の「2階建て」になります。
また厚生年金に加入していると、老齢年金だけでなく遺族年金・障害年金の受給額が多くなる可能性も。
被保険者が亡くなったとき、その遺族に支払われる公的年金のことです。
遺族年金の受給条件や受給期間などについては「遺族年金とは?どのくらいサポートがあるのか解説」で説明しています。
病気・ケガにより障害が残り、仕事や日常生活が困難になったときに受けられる給付金です。
障害年金の受給条件や申請方法、審査基準については「病気やケガをしたら、働きながらでももらえる障害年金を申請しよう!」を参考にしてください。
いざという時の給付金が増えると安心ですね。
【3】厚生年金と同時加入の健康保険にも大きなメリットがある
厚生年金に加入した場合、会社の健康保険組合によっては、次の国の保障に加えて「付加金」というものを受給できるメリットもあります。
- 傷病手当金
- 出産手当金
病気やケガにより会社を休み、十分な報酬が受けられないときに受け取れる給付金のことです。
被保険者が出産のために会社を休んだ期間で、給与が支払われなかった場合に支給される手当金。
出産日から数えて42日前※~出産翌日から数えて56日目の範囲内で、休業期間を対象として支給されます。
ただし、これらの制度を利用するには、一定条件を満たさなければなりません。加入する際に確認しておきましょうね。
厚生年金への加入がオススメなのは、個人事業主(自営業)の妻
でも最近、妻が「子どもが大きくなってきたから、もっと長い時間働きたい」と言っているんだ。
この場合、妻は勤務時間を増やすべきなんでしょうか?
厚生年金への加入がとくにオススメなのは、個人事業主の配偶者です。
たとえば夫が会社員(厚生年金加入者)の場合、その被扶養者である妻は第3号被保険者となることで、保険料の自己負担が不要になります。
しかし夫が個人事業主(国民年金加入者)だと、妻が第3号被保険者になることは不可能。国民年金か厚生年金に加入することになり、保険料を自己負担しなければなりません。
そのため国民年金に入っている妻は、厚生年金への加入によって保険料の自己負担分を減らせる可能性があるのです。
パートが厚生年金に入る2つのデメリット
パートが厚生年金に加入すると、次の2つのデメリットもあります。
- 月々の手取り額が減る
- 配偶者控除の対象外になる
それぞれ見ていきましょう。
【1】パートが厚生年金に加入すると月々の手取り額が減る
第3号被保険者※の場合、厚生年金に加入すると月々の手取り額が減ってしまいます。
第2号被保険者(厚生年金の加入者)に扶養されている配偶者のことです。
第3号被保険者の場合、保険料を負担する必要がありません。しかし厚生年金に入る(第2号被保険者になる)と保険料は被保険者の給料・賞与から差し引かれるため、自己負担分が発生してしまうのです。
【2】パートが厚生年金に加入すると配偶者控除が受けられなくなる
配偶者の扶養内で働いている人の場合、厚生年金に加入すると配偶者控除の対象外となってしまいます。
厚生年金に加入できるのは「月給88,000万円以上」の人ですから、年に換算すると約106万円となり、103万円を超えてしまうのです。
パートが厚生年金に加入するといざという時・老後の保障が手厚い!
厚生年金に加入すれば年金の支給額が多くなり保障も手厚くなりますが、給料の手取りが少なくなるというデメリットも。
しかし今は少し損をしてしまっても、いざという時や老後のお金をしっかり確保することも大切。将来受け取る年金・保障など、長い目で見て働き方を決めてはいかがでしょうか。
また厚生年金に加入することで、配偶者控除の対象から外れてしまうことも知っておきましょう。
政府の目標である「一億総活躍社会」。少子高齢化に歯止めを掛かえ、誰もが安心して活躍できる社会を目指しており、その一環として、社会保険適用拡大を推し進めています。
とはいうものの、社会保険加入には費用がかかります。
そのため、ベストな人生設計実現の為にも、働き方を真剣に考えることが必要です。
ネットワークエンジニアとして活動後、都内社会保険労務士事務所に勤務。
現在は個人事務所(労務・年金相談安達事務所)として活動している。