離婚時の年金分割は2年以内に!種類や注意点、申請方法を解説
年金分割とは、婚姻期間分の年金を公平に分けるための制度
「年金分割」とは夫婦が離婚する際、二人の婚姻期間中の厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度のこと。
申請した人(第2号改定者)が分割された年金を受け取り、その分申請を受けた側の人(第1号改定者)の年金が減る仕組みになっています。
離婚時の年金分割は『合意分割』と『3号分割』の2種類
離婚時の年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。大まかな違いは次のとおりです。
合意分割 | ・夫婦どちらか一方が請求できる |
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3号分割 | ・扶養されていた側※が請求できる ・平成20年5月1日以後に離婚した場合 |
まずは、それぞれの年金分割の条件・分割方法などを詳しく見ていきましょう。
離婚時の年金分割(1)合意分割
「合意分割」とは、次の条件を満たした場合に行える年金分割です。
・婚姻期間中の厚生年金記録※がある
・当事者双方の合意または裁判手続きにより「按分(あんぶん)割合」を定めた
「年金分割の対象となる二人の標準報酬合計額」のうち、「年金の分割分を受ける人が受ける分」を表したもの。「分割割合」とも呼ばれます。
「按分割合」は基本的に当事者間での話し合いにより決定します。しかし合意がまとまらない場合、どちらか一方が希望すれば、家庭裁判所に決定してもらうことが可能です。
離婚時の年金分割(2)3号分割
第2号被保険者(厚生年金の加入者)に扶養されている人のことです。
「3号分割」は、次の条件を満たした場合に行えます。
- 平成20年5月1日以後に離婚をした
- 婚姻期間中に、平成20年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間中の厚生年金記録※があること
「3号分割」の場合は、第1号改定者(第2号被保険者)の厚生年金記録の「2分の1」が第2号改定者に与えられます。
でも夫に拒否されそうで不安です・・・。
ただし扶養者が障害厚生年金をもらっている場合は、年金分割ができないケースもあります。
離婚時に年金分割を申請する際の注意点
離婚時の年金分割は、配偶者が厚生年金に入っていても分割してもらえない可能性があります。
次の注意点について、それぞれ詳しく説明します。
・対象となるのは「厚生年金」のみ
・年金の受給資格がなければ、分割された額ももらえない
年金分割は「厚生年金」のみが対象!国民年金は分割できない
ちなみに老齢年金には「老齢基礎年金(国民年金)」と「老齢厚生年金(厚生年金)」がありますが、老齢基礎年金は年金分割の対象となりません。
国民年金と厚生年金の違いについては、次の記事も参考にしてください。
また第1号改定者が障害年金を受給する場合、障害年金の受給額分は年金分割の対象外です。年金分割自体が不可となる可能性もあります。
年金分割できても、年金の受給資格を満たさなければもらえない
年金には受給資格があり、満たしていなければ保険料を支払っていても受給できません。これは年金分割して得た額においても同様です。
年金分割した額を受け取るには、受ける側が老齢基礎年金の受給資格を満たす必要があります。
- 被保険者の年齢が65歳以上
- 保険料納付済期間・保険料免除期間・合算対象期間※の合計が10年以上
離婚して扶養から外れ国民年金(厚生年金)を支払うことになった場合、決して滞納しないようにしましょう。
離婚時の年金分割の請求方法・必要書類
離婚時の年金分割は、次のいずれかに該当した日から数えて2年以内に行いましょう。
・離婚した
・婚姻の取り消しをした
・事実婚関係にある人が第3号被保険者ではなくなり、事実婚関係が解消した
請求から年金分割までの流れは、次のとおりです。
1:「年金分割のための情報通知書」を請求し、受け取る
2:当事者で話し合い、分割について合意する※
3:年金事務所に、年金分割の請求手続きを行う
4:「標準報酬改定通知書」を受け取る
それぞれの具体的な手順を説明します。
手順1:「年金分割のための情報通知書」を請求する
1:請求者の年金手帳または基礎年金番号通知書
2:婚姻期間等を明らかにできる書類※
3:事実婚関係にある機関の情報通知書を請求する場合は、その事実を明らかにできる書類(住民票など)
・戸籍謄本
・当事者それぞれの戸籍抄本
・戸籍の全部事項証明書
・当事者それぞれの戸籍の個人事項証明書
情報通知書は基本的に、日本年金機構から送られてきます。
当事者が2人とも請求した場合は、それぞれが受け取ることが可能。どちらか一方が請求した場合、交付方法は次のとおりです。
交付方法 | |
---|---|
すでに離婚している場合 | 当事者それぞれに交付 |
離婚していない場合 | 請求者のみに交付 |
手順2:当事者で話し合い、年金分割について合意する
年金分割を「合意分割」で行う場合、次のことについて当事者同士が合意する必要があります。
- 年金分割をすること
- 按分割合
両者が合意したら、年金事務所で請求手続きを行いましょう。
審判手続き | 裁判官が当事者の意見を聴いたうえで、按分割合を決める |
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調停手続き | 当事者2人を調停期日に呼び出し、調停委員会が按分割合を話し合うための手続きを行う |
離婚訴訟における附帯処分の手続き | 裁判で離婚を認めるかどうかを決めるときに、離婚の条件として按分割合も決める |
按分割合が決まったら、年金分割の請求手続きが可能になります。
手順3:年金事務所で、年金分割の請求手続きを行う
年金分割の請求手続きは、離婚した後のみ行うことが可能です。
まず合意分割・3号分割どちらの場合も、「標準報酬改定請求書」が必要。
そのほかに提出すべき書類は、次のとおりです。
請求者の年金手帳 または基礎年金番号通知書 |
※請求書に個人番号を記入したときは、マイナンバーカード等 |
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婚姻期間等を明らかにできる書類 | 次のいずれか ・戸籍謄本 ・それぞれの戸籍抄本 ・戸籍の全部事項証明書 ・それぞれの戸籍の個人事項証明書 |
当事者の生存を証明できる書類 | 次のいずれか ・戸籍謄本 ・それぞれの戸籍抄本 ・戸籍の全部事項証明書 ・それぞれの戸籍の個人事項証明書 |
事実婚関係であったことを証明できる書類 | 住民票など ※事実婚関係にある機関の合意分割をする場合のみ |
年金分割を明らかにできる書類 | 次のいずれか <話し合いで決めた場合> ・合意する旨を記入し、自ら署名した書類 ・公正証書の謄本または抄録謄本 ・公証人の認証を受けた私署証書 <裁判で決めた場合> |
請求者または代理人の本人確認書類 | 次のいずれか ・運転免許証 ・パスポート ・住民基本台帳カード(顔写真付き) ・印鑑、印鑑登録証明書 <代理人の場合のみ合わせて提出> |
請求者の年金手帳 または基礎年金番号通知書 |
※請求書に個人番号を記入したときは、マイナンバーカード等 |
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婚姻期間を明らかにできる書類 | 次のいずれか ・戸籍謄本 ・それぞれの戸籍抄本 ・戸籍の全部自己王証明書 ・それぞれの戸籍の個人事項証明書 |
相手方の生存を証明できる書類 | 次のいずれか ・戸籍の抄本 ・戸籍の個人事項証明書 ・住民票 ※請求日前1カ月以内に作成されたもの |
事実上離婚状態の証明をする書類 | ※離婚をしていないが、事実上離婚状態にあることを理由に請求する場合に提出 |
事実婚関係にある期間を証明する書類 | 住民票など ※事実婚関係にある期間の3号分割を請求する場合に提出 |
書類の提出は、最寄りの年金事務所や年金相談センター、各公務員共済組合など、厚生年金の手続きを行うどの期間でも可能です。
申請してから受理されるまで、1週間~1カ月程度みるようにしましょう。
手順4:「標準報酬改定通知書」を受け取る
年金分割の請求が受理されたら、按分割合に基づき改定された「標準報酬通知書(離婚時の年金分割のお知らせ)」が日本年金機構から当事者それぞれに届きます。
年金分割についての決定事項が記載されているので、大切に保管しておきましょう。
離婚後の年金分割は配偶者の収入に貢献した人の権利!臆せず申請を
「保険料を払ったのは配偶者だから、拒否されるかも・・・。」と思うかもしれませんが、配偶者の収入に貢献した人の権利ですから申請しましょう。
年金分割の申請は、離婚したなどの条件に該当してから2年以内に行ってください。請求期限を過ぎると年金分割ができなくなります。
しかし老齢年金の額には変動があり、将来もらえる額は予測できません。
年金だけを頼りにせず、老後資金の貯蓄を行っておくのがオススメです。
離婚をすると、元妻の方が経済的に不利になることが多いですが、年金分割をすることによって、お互いの均衡を図ることができ、元妻の老後の所得を安定させることができます。
また、話し合いで合意に達しない場合、裁判で按分割合を定めることができますが、2分の1ずつになることが一般的です。
日本年金機構、社労士法人勤務を経て開業。中小企業の労務管理に従事する一方、年金相談窓口や無料相談会などで年金相談を受けている。