厚生年金
在職老齢年金の減額・支給停止になる仕組みと、老後に損しない働き方

在職老齢年金の減額・支給停止になる仕組みと、老後に損しない働き方

意識高い系の友達が「俺は生涯現役だから、老後もいまの会社で働くんだ!」って言ってるんすよ。すごいよなぁ、尊敬するわ。
お友達が会社員(厚生年金の加入者)ということでしたら、老後は働きながら年金をもらうんでしょうか?
そうらしいですよ。
そうなんですね。では年金を受給しながら働く場合、収入が一定以上だと老齢厚生年金(在職老齢年金)の支給額が減額または支給停止になることを知っていますか?
マジで!?知らなかった。それって損じゃないですか?
年金の受給期間中、「厚生年金に入ると損」だとは言い切れませんよ。ちょっと話がややこしくなりそうなので、最初にこの記事のポイントをまとめておきますね。
この記事のポイント
・60歳以降に年金をもらいながら働くと、収入によっては年金が減る、または支給停止になる。

・年金受給が始まったら、厚生年金の加入対象から外れると老齢年金は減らない。しかし保険料が自己負担になるので、必ずしも得とはいえない。

・老後も働くなら、年金を繰り下げ受給※すると年金額が増えるのでオススメ。

※年金の受給開始を遅らせること

それでは在職老齢年金が減額される仕組みや、老後の働き方について解説します。

在職老齢年金とは?収入によっては支給額が減額・支給停止される

在職老齢年金とは、厚生年金の加入者が働きながら受け取る年金のことです。

ちなみに厚生年金の加入者は、加入期間(受給資格期間)が10年以上あると老齢年金を受け取れるようになります。

働きながらでも老齢年金はもらえるんですね!
ええ。ですが在職老齢年金の場合、受給者の収入によって支給額が減額されたり、全額支給停止になったりすることもあるんですよ。
えーっ!どうしてですか?
本来、老齢年金は「老後に働けなくなり、収入を得るのが難しい人」のためのもの。

ある程度安定した収入が得られている人に対しては、「在職老齢年金」として年金額が調整されるのです。

在職老齢年金の支給額が減額されるのは受給者が老後も働くことで収入を得ているから

在職老齢年金が減額される仕組みをわかりやすく解説

在職老齢年金で減額または支給停止されるのは、収入が一定以上ある人。

ここでいう「収入」とは、次の金額のことです。

・基本月額
(1年分の年金額を12で割った数)
・総報酬月額相当額
(標準報酬月額+1年間の標準賞与額を12で割った数)

詳しい計算方法については、日本年金機構の公式ホームページでご確認ください。

「基本月額」や「総報酬月額相当額」って自分で確認できるものなんですか?
マルピーさんやお友達の場合はまだ20代ですよね。それだと厚生年金の支給額の目安ならわかりますが、明確な金額を知ることは難しいです。

また今後は昇給・転職などで給料が変動したり、年金制度が変わったりする可能性もありますよ。

そうなのか~。
でも制度の内容・仕組みを知っておくのは、老後のためにとても大切なことです。ここで確認して、お友達にも教えてあげてくださいね。

収入がいくら以上だと減額・支給停止されるかは、受給者の年齢によって異なります。年齢別に、在職老齢年金の仕組みを見ていきましょう。

【1】在職老齢年金の仕組み(受給者が60歳~64歳の場合)

在職老齢年金の受給者が60歳~64歳の場合、収入(基本月額・総報酬月額相当額の合計)が28万円を超えると年金額が減額、または支給停止になります。

60歳から64歳の人の在職老齢年金は、収入(基本月額と総報酬月額相当額の合計)が28万円を超えると減額または支給停止になる

支給額は基本月額・総報酬月額相当額の金額によって次のように減額・支給停止されます。

基本月額が28万円以下・総報酬月額相当額が47万円以下の場合
支給停止の月額
=(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)×0.5
基本月額が28万円以下・総報酬月額相当額が47万円超えの場合
支給停止の月額
=(47万円+基本月額-28万円)×0.5+(総報酬月額相当額-47万円)
基本月額が28万円超え・総報酬月額相当額が47万円以下の場合
支給停止の月額
=総報酬月額相当額×0.5
基本月額が28万円超え・総報酬月額相当額が47万円超えの場合
支給停止の月額
=47万円×0.5+(総報酬月額相当額-47万円)

では65歳以上になると、どのような場合に年金が減るのでしょうか。次の章で確認しましょう。

【2】在職老齢年金の仕組み(受給者が65歳以上の場合)

受給者が65歳以上の場合、基本月額・総報酬月額の合計が47万円を超えると年金額が減額、または支給停止されます。

支給停止額の計算式は次のとおりです。

基本月額・総報酬月額相当額の合計が47万円超えの場合
支給停止額
=(総報酬月額相当額+基本月額-47万円)×0.5
お給料が減って、在職老齢年金の減額(支給停止)対象者じゃなくなったら、何か手続きが必要ですか?
いいえ。会社側が届出を提出するので、年金受給者は何もしなくて大丈夫ですよ。
あのー、オイラも生涯現役のつもりだけど、年金減らされる可能性があるんですか?
いえいえ、ダイプーさんは自営業で国民年金のみの加入ですから、在職老齢年金の対象ではないんです。減額されることはありませんよ。

ちなみに遺族年金障害年金が支給停止されることもありません。

高年齢雇用継続給付を受けると年金額がさらに減額される

60歳以上65歳未満で年金を受けながら厚生年金に加入する場合、「高年齢雇用継続給付※」を受給すると年金額がさらに減ってしまいます。

高年齢雇用継続給付とは

60歳以後に賃金が下がった人への、雇用保険の救済制度のこと。次の条件を満たす人が加入対象者です。

・雇用保険の加入期間が5年以上
・厚生年金加入者
・60歳以上65歳未満

60歳以後の賃金が60歳到達時点の賃金の75%未満になった場合に、給付金が支給されます。

高年齢雇用継続給付の内容や受給条件、年金額の支給停止額については次の記事で解説しています。

在職老齢年金とあわせて受け取る場合は、年金がいくらぐらい減るのか確認しておきましょう。

『老後は厚生年金から外れて働くほうが得』とは限らない!

厚生年金に加入しているあいだは、もらえる年金が少なくなるのかー。じゃあ、厚生年金に入らずに働けば得なんですか?
いえ、そうとは限りません。年金受給開始後、厚生年金に加入するメリット・デメリットを見てみましょう。
年金受給開始後に厚生年金から抜けるメリット・デメリット
メリット ・在職老齢年金の調整による減額、支給停止を避けられる
・年金保険料を払う必要がない
デメリット ・自分で国民健康保険に加入するため、健康保険料がかかる
・厚生年金への加入期間が足りないと、年金の受給は不可
・加入者の被扶養配偶者が60歳未満の場合、加入者の厚生年金脱退により国民年金保険料が自己負担になる

老齢年金の受給は、基本的に65歳から可能です。その期間から厚生年金に入らず働くことで、在職老齢年金の減額・支給停止を避けられます。

さらに60歳以上は原則国民年金へ加入できないため、厚生年金から外れると国民年金の保険料も払う必要はありません。

厚生年金に加入しない働き方は、主に次の3つです。

  • 勤務時間を減らし厚生年金から外れる
  • 自営業者として働く
  • 厚生年金に加入していない事業所で働く
正社員からパート・アルバイトになった場合も、厚生年金の加入対象から外れますか?
パートやアルバイトの場合、勤務時間・契約した労働期間によっては厚生年金の被保険者となります。

厚生年金の詳しい加入条件は「厚生年金の加入条件【パート・アルバイトも対象になる場合あり】」で説明しているので、こちらも確認してください。

ただし被扶養配偶者が60歳未満の場合は要注意。厚生年金から抜けると、被扶養者だった人が国民年金保険料を自己負担しなければなりません。

また老後に厚生年金へ加入しない場合は、国民健康保険料を払うことになります。

国民健康保険料は、家族の扶養に入っちゃえば払わなくていいっしょ?
マルピーさん・・・家族の扶養に入れるのは74歳までですよ。75歳からは「後期高齢者医療制度」に入ることになります。そのため保険料の支払いは続くんです。
そうだったのか・・・!
また勤めていた会社の任意継続被保険者になれるのも、退職後2年間のみ。最終的には、国民健康保険料を自己負担することになるんです。
厚生年金の加入対象年齢は原則70歳までですが、加入期間が10年未満である場合は年金自体もらえなかったり、未納分に応じて年金が少なくなったりしてしまいます。

しかし一定条件を満たせば70歳以後も「高齢任意加入被保険者」として引き続き厚生年金に加入できます。未納分がある人は検討してみましょう。

ちなみに高齢任意加入被保険者となる場合、事業主の同意がなければ年金保険料は「全額自己負担」になります。

厚生年金の保険料は労使折半だが、高齢任意加入被保険者の場合は事業主の同意がないと全額自己負担になる

厚生年金の加入者になったら年金が減るかもしれないし、厚生年金から外れれば保険料がかかる・・・老後が不安になってきたなぁ。
そんな落ち込まないでください。老後も働くなら、年金の受給を遅らせると支給額が増えますよ。次の章でお話ししますね。

老後に働くなら『年金の繰り下げ受給』がオススメ!

老後も働く場合、年金は「繰り下げ受給」をするのがオススメです。

「繰り下げ受給」って何ですか?
老齢年金の受給開始時期を、66歳以降に遅らせることです。
年金の受給を遅らせると、何かメリットがあるのかな・・・?
繰り下げの申し出をした年齢に応じて、もらえる年金が多くなるんですよ。

年金を繰り下げ受給すると年金の支給額が増える

厚生年金を繰り下げ受給した場合の増額率は、日本年金機構によって次のように定められています。

厚生年金の繰り下げ請求年齢と増額率
繰り下げ請求年齢 増額率
66歳0カ月~66歳11カ月 8.4%~16.1%
67歳0カ月~67歳11カ月 16.8%~24.5%
68歳0カ月~68歳11カ月 25.2%~32.9%
69歳0カ月~69歳11カ月 33.6%~41.3%
70歳0カ月~ 42.0%
※特別支給の老齢厚生年金は繰り下げ支給の対象外

しかし、次のようなデメリットもあります。

厚生年金「繰り下げ支給」のデメリット
  • 繰り下げ受給の申請は取り消し不可
  • 繰り下げが決定したら、支給開始までは年金が一切もらえない
  • 加給年金には繰り下げ加算がない

65歳以後も働く場合、給与・賞与が大幅に減らないのであれば、繰り下げ受給も検討してみるといいでしょう。

ただし年金の繰り下げ期間中に厚生年金へ加入していた場合は、「本来65歳で受給する年金額」から「在職老齢年金の支給停止額」を差し引いた金額が、増額対象になります。

繰り下げ受給の利用条件については「老齢厚生年金の繰下げ受給はどんな仕組み?注意点や手続き方法も紹介」で詳しく説明します。こちらも参考にしてください。

老後も働くなら年金の減額・支給停止に注意!可能なら繰り下げしよう

老後に年金をもらいながら働く(厚生年金への加入を続ける)場合、収入によっては年金が減額・支給停止になる恐れがあります。

損をしないためにオススメの方法は、厚生年金の繰り下げ受給をすること。

年金額を増やすことが可能なので、今後のライフプランとあわせて検討してみてくださいね。

また老後は体力の低下などにより、いつ働けなくなるかわかりません。退職後のことも考え、個人年金個人向け国債などの「不労所得」で老後の収入を増やしておくこともオススメします。

※記載の情報は2019年11月現在のものです。

監修者メッセージ

受給できる年金額は人によって本当に様々です。また、寿命などの関係から確実に正解だというのもを選択できるわけでもありません。

ただし、情報を多く持っておくことに越したことはないので、毎年誕生月に送付されてくる「ねんきん定期便」などをきっかけに自身の年金について考えてみましょう。

プロフィール
年金カテゴリー記事監修(安達伸伍)
安達 伸伍
社会保険労務士。
ネットワークエンジニアとして活動後、都内社会保険労務士事務所に勤務。
現在は個人事務所(労務・年金相談安達事務所)として活動している。