定年退職後、年金はどうなる?得する選択肢で損しない老後を
「老後の生活は年金で暮らそう」そう思いながら、実際の『年金制度』がどのような仕組みになっているのか、詳しく知らない人も多いのではないでしょうか?
国民の義務として支払う必要のある「年金」ですが、その内容や条件は複雑です。
理解をしないままでいると、せっかくの制度を有効活用できないかもしれません。
60歳以降も働き続けるという選択肢が増えている近年だからこそ、年金制度の種類やしくみをしっかりと理解することが大切です。ご自身に合ったライフスタイルで年金制度を活用できるよう、重要ポイントをやさしく解説します!
払い続けた年金、そもそもどんな制度?一体なぜ年金制度はあるの?
年金は大きく分けて3種類
「年金制度」とひとえに言っても、その種類は大きく3つに分けることができます。
- 国民年金
- 厚生年金
- その他の年金
「国民年金」と「厚生年金」は、公的年金に分類されます。これは、加齢などによって稼得能力が減退・喪失することに備えた「社会保険」のひとつです。
国民年金はすべての国民が被保険者となり、年金の支払い義務・受給権利を得ます。
一方、厚生年金は民間サラリーマンや公務員が加入する年金で、報酬に比例した年金を国民年金に上乗せして受け取ることができます。
これらの年金制度は、あらかじめ保険料を納めることで、必要なときに給付を受けられる社会保険です。
年金は老齢による予測不能な将来に備え、国民が自立した生活をできるよう社会全体で各世代を支えるための大切な仕組みです。
なお、民間企業に勤めず自営業をおこなっている場合は、厚生年金に変わって「国民年金基金」に加入することができます。
わたしたちは年金を納めることで、老後に働けなくなっても国からの給付を受けて毎日の暮らしを支えていくことができるのです。
老齢年金?厚生年金?種類によって何が違う?各制度の特徴を知ろう
国民年金の属性は3つに分かれる
国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人に加入義務があります。その中でも、それぞれの属性により加入する年金制度の種類が異なります。
- 第一号被保険者:自営業、学生、フリーターなど
- 第二号被保険者:会社員・公務員
- 第三号被保険者:第二被保険者の配偶者(専業主婦など)
国民年金に加入するすべての人が受給できる年金を「国民年金」といいます。国民年金のなかには、老齢基礎年金・障害基礎年金・遺族基礎年金の3つがあります。
「老齢年金」と呼ばれる年金は、この国民年金の老齢基礎年金と老齢厚生年金を指します。
支給されるタイミングは原則65歳から。保険料を10年間以上収めていることを条件に、納付期間に応じた金額が支給されます。
第二被保険者に分類されると、この国民年金とは別に「厚生年金保険」に加入し、国民年金に加えて「厚生年金」を受け取ることができます。厚生年金は、勤め先と加入者が半分ずつ保険料を支払い、その保険料は個人の所得によって決まります。
なお、扶養する配偶者がいる場合は、第三被保険者に分類され、保険料は第二号被保険者が配偶者加入する年金制度で一括負担します。
厚生年金にも種類がある
サラリーマンや公務員が加入する厚生年金保険にも年金種類に小分類があります。厚生年金も国民年金と同じく、老齢厚生年金・障害厚生年金・遺族厚生年金の3つに分かれます。
厚生年金は、基本的に「老齢基礎年金」の受給権を得たときに支給されます。給付される金額は、納付した期間と給与に応じて決定します。
一般的には、国民年金における老齢基礎年金を「老齢年金」または「基礎年金」と呼び、厚生年金における老齢厚生年金を「厚生年金」と呼ぶことが多いです。似たような言葉が出てきて複雑ですが、それぞれに年金制度による加入条件や保険料が違うため、解釈には注意が必要です。
年金はいつからもらえる?60歳で定年退職をした場合は?
60歳を過ぎても働く人が増えている
2013年4月に「高年齢者雇用安定法」が施行されたことで、60歳で定年を迎えても希望者は65歳まで働ける環境が整ってきています。これは、国民年金の受給開始年齢が段階的に65歳へ引き上げられたことに応じ、対象者が年金受給開始までの無収入期間をなくすための国による施策です。
しかし65歳まで働かず60歳で定年退職をする場合、65歳まで本当に年金は受給できないのでしょうか?また、逆に65歳を過ぎても働き続ける場合は、なにか年金制度への影響があるのでしょうか。それぞれの年齢による違いをご紹介します。
60歳で定年退職をし、65歳よりはやく年金を受給したい場合
年金は原則65歳から支給開始ですが、60歳で定年退職をし働かない場合、退職金や貯蓄だけでは生活費をまかなうのは心もとないこともありますよね。そのような場合は「繰り上げ制度」を活用して、年金受給開始を早めることができます。
老齢基礎年金では、希望者に対して60歳から65歳までの間に年金支給を開始する繰上げ制度を設けています。
ただし、繰り上げ支給をすると請求のタイミングに応じて年金が減額され、その減額率は一生変わらないので注意が必要です。
すぐ手元に現金が必要な場合は、生涯もらえる年金額が減ることも考慮したうえで繰り上げ支給を検討してみるとよいでしょう。
65歳になっても働きながら、年金を受給したい場合
65歳になって年金受給が開始したあとも「まだまだ現役で働きたい!」という場合、年金をもらいながら働くことに何か問題は生じるのでしょうか?ここでネックとなるのが「在職老齢年金制度」です。
在職老齢年金とは、厚生年金を受給しながら厚生年金に加入する事業所で働いた場合に、受給する年金を減額もしくは支給停止する制度です。
65歳を超えて年金を受給しながら、働いて保険料を払うという複雑な状況において、受け取る年金と給与のバランスを調整することを目的としています。
減額もしくは支給対象となる条件は、厚生年金の受給額(基本月額)と給与額(総報酬月額相当額)の合計額によって決定されます。この制度においては、総報酬月額相当額に賞与が含まれるため、前年に多額のボーナスをもらっていると、年金が全額支給停止になるケースがあります。
年齢 | 条件 |
---|---|
60歳以上65歳未満 | 月々の厚生年金+総報酬月額相当額が28万円を超える場合 |
65歳以上 | 月々の厚生年金+総報酬月額相当額が47万円を超える場合 |
たとえば、毎月12万円の厚生年金を受給しながら、厚生年金に加入している事業所で働いて月42万円を稼ぐ場合、「7万円」の年金が支給停止となります。
厚生年金を受給しながら厚生年金への加入を続けると、年金受給額に影響を及ぼす可能性があるため、定年後に働く場合は事前シミュレーションをしておくことが大切です。
「定年後も仕事を続けたいけど損する働き方はしたくない!」という人は、次の記事も合わせてチェックしてみてくださいね。
65歳を過ぎても、年金を受給せず繰り下げたい場合
老齢基礎年金は、繰り上げができるだけではなく受給開始年齢を遅らせる「繰り下げ」も可能です。
年金支給を繰り下げることで、受給開始年齢に応じて年金が増額されます。なお、増額された年金は一生変わらずに受給することができます。
請求時の年齢 | 増額率 |
---|---|
66歳0ヵ月~66歳11ヵ月 | 8.4%~16.1% |
67歳0ヵ月~67歳11ヵ月 | 16.8%~24.5% |
68歳0ヵ月~68歳11ヵ月 | 25.2%~32.9% |
69歳0ヵ月~69歳11ヵ月 | 33.6%~41.3% |
70歳0ヵ月~ | 42.0% |
65歳を過ぎても働き続けて資産に余裕がある場合、年金受給開始年齢を繰り下げ、年金額のUPを狙うことも可能です!
年金をいくらもらえるか知りたい!受給開始手続きには何が必要?
さて、いざ年金をもらうにあたり「一体いくらもらえるの?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。厚生労働省公表の『平成29年度の年金額改定について』によると、平成29年度における67歳以下の年金額例について以下のように報告されています。
年金の種類 | 年金額の例(月額) |
---|---|
国民年金 | 64,941円(老齢基礎年金1人分) |
厚生年金 | 221,277円(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額)※ |
実際に支給される金額については、毎年の誕生月に送付される「ねんきん定期便」やインターネットを利用した「ねんきんネット」、さらに「ねんきんダイヤル」から年金見込額試算をおこなうことができます。
また、年金支給開始月の3ヶ月前に日本年金機構から郵送される『裁定請求書』においても年金額を確認することができます。年金を受給開始するには、この裁定請求書を提出する手続きが必要です。
年金の受け取る手続きと流れ
年金を受給開始するには、裁定請求書と必要書類の提出が必要です。必要書類を事前に把握しておくことで、いざ受け取りを開始するときに書類集めに奔走せずに済みますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
- 公的機関が証明する書類(戸籍謄本、戸籍抄本、戸籍の記載事項証明、住民票、住民票の記載事項証明書等
- 受け取り先金融機関の通帳等
- 印鑑
- 世帯全員の住民票
- 配偶者の年金手帳または基礎年金番号通知書等
- 配偶者や子どもの所得を証明するもの
年金受給開始に必要な書類は簡略傾向にあり、対象者によって必要書類が異なるため常に最新の情報を確認することが必要です。詳しくは、日本年金機構のホームページや相談窓口へ問い合わせましょう。
年金請求書と必要書類を提出すると、日本年金機構が対象者の「受給権」を確認し約1〜2ヶ月後に「年金証明・年金決定通知書」が送られます。そこから約1〜2ヶ月後に年金支払いの案内が届き、年金の受給が開始される流れとなっています。
事前に知っておきたい!年金制度の豆知識をご紹介
高年齢雇用継続給付で賃金低下分をカバー
60歳を超えて再就職や再雇用をすると、賃金が60歳以前で働いていたときの30〜70%に引き下げられてしまうことがあります。60歳以降も働く意欲がある人の生活を補うために、国の雇用保険では「高年齢雇用継続給付金」という制度を設けています。
高年齢雇用継続給付金では、60歳以降で働いた賃金が60歳以前の賃金の75%未満となる場合、最長2年間、最大で毎月賃金15%の支給を受けることができます。
詳しい支給条件は以下の通りです。
- 60歳以上65歳未満であること
- 雇用保険の一般被保険者であること
- 雇用保険の被保険者期間が5年以上あること
- 基本手当を受給していないこと
- 60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満であること
支給期間や支給要件さえ満たせば、60歳以降の賃金低下分を補う国の制度を活用することが可能です。
受給資格を満たしてなければ高齢任意加入をしよう
もし万が一、20〜60歳までの国民年金加入期間で過去未加入期間がある場合に、受給資格が満たない人・満額受給できない人の対抗措置として「高齢任意加入」という制度があります。
高齢任意加入では、60歳を過ぎても任意で国民年金に加入することができ、不足分を補うことで受け取れる年金額を増やすことができます。
受給資格を満たしていないまま60歳を迎えても、申し出をして国民年金の加入を任意継続すれば、国民年金を満額受給する道が開かれています。
勤務先によっては「企業年金」を受け取れることも
「企業年金」とは、企業が福利厚生の一環として従業員へ支給する年金のことです。もともとは退職金制度の一部としてはじまり、国の制度としても認められています。
企業年金のなかには、厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金などさまざまな種類があります。企業年金は勤務先で加入していれば、国民年金や厚生年金に上乗せしてさらに年金を受給することができます。
ご自身がどのような企業年金に加入しているかは、勤務する企業の人事総務部や就業規則で確認しましょう。
定年退職をした場合、60歳未満の妻の年金は「免除」することも可能
60歳を過ぎて定年退職をした場合、妻が60歳未満であれば基本的には年金の種別変更手続きをし、妻は60歳になるまで引き続き保険料を支払わなくてはなりません。しかし、夫の定年退職後に保険料の納付が困難となった場合「免除申請」をすることも可能です。
世帯収入が一定要件を満たせば免除を受けることができ、将来妻が受け取れる年金は目減りしますが納付期間としてはカウントされるため将来も安心です。年金保険料の支払いが厳しい場合は、一度検討をしてみるとよいでしょう。
定年退職前に確認しよう!年金制度を理解して安心の老後ライフを
年金定期便は毎年誕生月に郵送され、保険料の納付実績や将来受け取れる年金額などの情報を確認することができます。
年に一度はご自身の加入している年金制度の内容に触れ、加入条件や支給金額などに目を通すことで、年金制度への理解が深まることでしょう。
定年退職をしてから焦らずに済むよう、事前にご自身の年金情報をしっかりと確認し、老後も安心して暮らせる準備が大切です!